母音法
「母音法」とは、母音の発音を徹底的に正す事で五十音のすべてをきれいに発音できるようにする手法である。それによって、一音一音が分離し等間隔に並ぶために一語一語の言葉が明瞭になる。
日本語の話し言葉を聞き手に確実に届け、かつ「きれいだ」と感じてもらうためには、一音一音が分離している事が何よりも重要である。例えば「はじめまして」という挨拶なら、「は・じ・め・ま・し・て」と、一音一音分離させる事で、これまでとは数段の違いが出る。ところが、オーバーな抑揚をつけたがる俳優のセリフは、ある音はやけに長く引っ張ったり、ある音は他の音とくっついてしまう。そのため、観客にとって非常に聞き取りにくいものになる。一般的な会話でも同じで、口の中でごにょごにょ言って聞き取りにくい話し方の人は、一音一音をバラバラの大きさにしてしまっている。
セリフの一音一音を等間隔に並べるためには、母音を明確に発音すればよい。中でも「ア」は圧倒的に多く使われるため重要である。まず、言葉をその土台である母音だけで発音し、明晰に母音を分離する感覚を体に入れ込み、それから子音を乗せてしゃべっていくという練習をする。
はじめまして → アイエアイエ
お疲れさまでした → オウアエアアエイア
劇団四季の俳優たちはこの練習を繰り返している。
呼吸法
声を出すためには「息を出す」事が不可欠である。だから、長い言葉を明確にしゃべろうとしたら、長く息を吐き続ける事が必要になる。劇団四季では、腹・背筋という筋肉を使って呼吸をコントロールし、体全体に声を共鳴させる方法を徹底して教える。
まずは腹式呼吸の「感覚」を身につける事から始める。「息を吐く時にお腹をへこませ、吸う時にお腹を膨らませる」事を意識する。この時、横腹から後ろ側の腰あたりまでを含めてお腹と考える。大事なのは、まず「吐き切る」こと。肺を空っぽにすれば、次には嫌でも大きな息が入ってくる。腹式呼吸ができれば、そこに正しい発音を乗せていく。
フレージング法
読み書きする言葉と話す言葉の大きな違いは、どこでフレーズを切るかという事にある。人に話して伝えるには、相手によくわかるように、切る場所を考えなければならない。フレーズをどこで切るかという事を「折れ」と呼ぶ。セリフの中にあるイメージや想念の流れを読み込み、その変化する部分を折り、折ったフレーズをどう語るかを考える技術が「フレージング法」である。
読み書きにおいて、句読点は文章を目で読みやすくするために用いられるが、話す時にはイメージ(意味合い)を伝える事が最優先になる。そのため論理的にセリフの切れ目を考えて、それを観客が受け入れやすい形で明晰に伝える必要がある。