ものづくり成長戦略
供給サイドから見るなら、日本経済は日本産業の集まりであり、日本産業は日本の現場の集まりである。一般に「現場」とは付加価値が流れる場所を指す。従って、日本経済全体の付加価値、つまりGDPを土台で支えるのは現場であり、現場の維持や成長がない限り、日本経済の発展もない。地域のものづくり活性化の取り組みにより、日本全国の「良い現場」が維持され、そこで能力構築が続き、それが積み重なって日本全体の労働生産性が上がり、我々の生活水準も上がる。
但し、現場が生き残りのために生産性を上げても、販売量が増えない限り、雇用は減ってしまう。雇用を維持するのであれば、生産性向上と売上拡大の両方が必要となる。
人口減少が進む中、日本経済の成長戦略は、一人当たり所得の成長、「人生の質」の向上で見るのが妥当である。そして、労働力人口の比率が所与とすれば、労働生産性が国民の生活水準と直結するのは自明である。各地の現場の生産性向上をどう達成するか、という論点が織り込まれていない「国の成長戦略」は、現場視点という意味でのリアリティが欠けていると言わざるを得ない。
長期視点の「成長戦略」とは、①全国の現場での能力構築や生産性向上を促進する政策と、②それによって拡大する需給ギャップを埋めるための官民双方による有効需要の創出策を、それぞれ総供給側・総需要側の二本柱と考えるのが自然である。
これに対し、わが国の歴代政権の「成長戦略」は、需要側は短期的・カンフル剤的財政支出拡大、供給側は「規制緩和」と「成長有望産業の列挙」を重視する傾向が強かった。確かに規制緩和が本格的に実現すれば、ブレーキが解除されて車は前に進む。しかし、「ブレーキ解除は良いけれど、エンジンの話はどうなったの?」という感想を持たざるを得ない。エンジンを分解していけば、そこには必ず「現場」がある。
ものづくりインストラクターの養成で現場を改善する
地域で活躍するものづくり現場改善のインストラクター活動は「産・金・官・学」連携の地域経済振興の活動として、徐々に成果を上げ始めている。シニア世代を有効活用しようと企業が進める取り組みの多くは、企業内部で人材の需給をバランスさせる閉じたアプローチである。これに対し、オープン・アプローチとして「ものづくりインストラクター養成スクール」がある。定年退職後に他の企業や他の業種でも、現場管理・改善の指導ができる、汎用性を持った「オープン」型の人材を育成しようと考えた。
日本でのインストラクター活動を成功させその先には、得意なものづくり改善で世界に貢献する日本企業という1つのあるべき姿への回帰、という筋道が見えてくるだろう。