脳の働きを調べ、それをマーケティングに応用する。ニューロマーケティングという研究が海外では進んでいる。脳の働きが解明されることで、人の購買行動をもコントロールできる日が来る可能性もある。ニューロマーケティングの現状を紹介しながら、既存のマーケティングの常識を疑うことの有用性を説く。
■脳科学をマーケティングに応用する
2002年、神経細胞を意味するニューロンとマーケティングを合成した「ニューロマーケティング」という言葉が提唱された。これは、人間とそれを取り巻く外界刺激との相互作用を捉えるマーケティングである。
脳を知る事は、意識を知る事である。意識を知る事は、感覚を知る事である。そして、感覚を知る事は、そこに接するマーケティングを知る事であり、「脳」「意識」「行動」「マーケティング」の相互作用を知る事なのである。
従来のマーケティングは、顧客の需要を静的に捉え、その需要にあった商品の情報を「提供」してきた。これに対して、顧客と商品・サービスとの間の作用・反作用の振る舞いに応じてマーケティングを繰り出すのが、脳科学が切り開きつつあるマーケティングのアプローチだ。
■マーケティングの常識を疑え
既存のマーケティングで信じられてきた、いくつかのマーケティングの法則を「ニューロダイナミクス」という観点から俯瞰すると、根本的な危うさが露呈する。従来の法則を覆し得る脳の仕組みから、マーケティングアプローチの可能性を検討すれば、様々な打開策が残されている。
①ブランド認知優先の法則
商品名を記憶するシステムは、商品のコンセプトや物語を記憶するシステムとも、その使用所作を記憶するシステムとも異なる。商品名を認知させたからといって、自動的に関心が高まったり、購買につながるとは限らない。むしろコンセプトや使用を通じた記憶を優先させる方が、ビジネスを広げる可能性もある。
②メッセージ訴求力の法則
商品やサービスについて、美しく語り尽くす事が逆効果となる可能性がある。魅力的な美辞麗句より、商品やサービスについての矛盾や、あえて伝えない重要情報等のディストラクターを設計する事で、脳を強制的に起動させ得る。
③バーチャル化の法則
購買検討や情報検索のバーチャル化が進めば進むほど、そのひずみとして五感感覚による確認欲求が高まる可能性がある。店舗体験は、応分の価格プレミアムを正当化するような豪華さの演出ではなく、五感感覚を最大に呼び覚ますような設計をする事で、スムーズな購買活動につながる可能性がある。
④満足総量普遍の法則
不満ゼロの商品が満足度を高めるとは必ずしも限らず、コモディティ化を助長するリスクをもはらむ。反対に、80点の商品が、顧客の介入余地を生み、マイナスの体験すらも商品への愛着に転化し得る可能性がある。
⑤アダプテーションの法則
脳や身体の仕組みに働きかけるような普遍的商品やサービスを設計できると、それはユニバーサルな商品・ブランドとなり、民族や世代、性別を超える可能性がある。
これらはあくまでも思考実験の域を出ることはない。しかし、マーケターは、自らが長く信じて疑わなかった多くのマーケティングの常識を、脳という擬人観点を活用して、原点から疑い、見直し、新しい洞察を得なければならない時が来ている。
著者 田邊 学司
株式会社GFL代表取締役CEO 博報堂にて20年間、マーケティングおよびブランディングに従事。主に新商品開発、イノベーション開発、ビジョン・コンセプト構築等を中心に、ブランド強化のための数多くのプロジェクトを手がける。 2009年、ニューヨークのニューロマーケティングコンサルタンシー「バイオロジー社」の社外取締役に就任し、国内及びグローバルでの非言語ブランドプロジェクトを推進。 2013年、独自のゲーム型直感リサーチシステム「ファンケート」を開発・販売する株式会社GFL(Gut Feeling Laboratory Inc.)を創設し、現職。
著者 小野寺 健司コネクトグローバル代表 東北芸術工科大学大学院 客員教授 中央大学商学部 客員講師 早稲田大学商学学術院 講師 1975年に博報堂入社。1984年から1989年まで博報堂アメリカ副社長を務めたのち帰国し、マーケティング局でグローバル関連得意先を中心にプラニング業務を担当。 1999年から2012年まで、研究開発局でグローバル・ブランド管理、五感ブランディング、パコ・アンダーヒル氏とのショッパーインサイト、ニューロマーケティングを実践するブレインブリッジ等のプロジェクトリーダーとして、ツール開発・コンサルティングを行う。2013年4月より現職。
ビジネスブックマラソン 土井 英司 |
章名 | 開始 | 目安 | 重要度 |
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第1章 消費者は本当に欲しいものを知らない | p.1 | 29分 | |
第2章 「なんとなく」へのあくなき探求心 | p.41 | 34分 | |
第3章 脳はテレビCMの何を見ているのか | p.87 | 31分 | |
第4章 キリスト教は知っていたブランドの秘密 | p.129 | 23分 | |
第5章 ニューロマーケティングで変わる5つの常識 | p.161 | 22分 | |
第6章 脳科学とマーケティングでつくる新しい関係性 | p.191 | 16分 | |
おわりに | p.213 | 8分 |
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