稲盛和夫氏と「稲盛経営」を実践する盛和塾生のインタビューを通じて、「経営者とは何か」について問いかける1冊。稲盛哲学がよくわかる内容になっている。
■従業員をやる気にさせる事が経営の要諦である
企業経営というのは、プロペラがついていて空を飛ぶ事ができる自転車のようなものである。常に漕いでいないと、途端に重力で地面に落ちてしまう。「景気が悪いから駄目です」と言ったそばから、もう一気に落ちてしまう。地上から少しのところで低迷しているのが中小企業であり、常に必死に頑張らないと潰れる。先が見えないなら、見えんでいい。なぜ今、一生懸命に漕ぐという事をせんのだ。
まず社長が頑張って漕ぐ。でも1人では重たくてうまく漕げない。だから、従業員たちにも社長と同じ気持ちになってもらって、全員で漕ぐ。社長が「なにくそ、今は大変な状況だから頑張らんといかん」と思うと同時に、従業員が同じ気持ちになってくれるようにどう仕向けていくか。これが大切だ。
■経営者とは何か
なぜ、稲盛はこれほどまでに信奉されるのか。
稲盛経営の代名詞といえば「アメーバ経営」。これは組織全体を5〜50人程度の小集団(アメーバ)に細かく分け、各アメーバに独立採算を求める管理手法だ。アメーバ経営が従来型組織と大きく異なるのは、各アメーバごとに利益や経費が毎日分かる点。自分のアメーバが今日いくら儲けたのか、いくら赤字だったのかがはっきりするので、一人ひとりの従業員が経営者感覚を持って「売り上げ最大、経費最小」を目指すようになる。
この部門別採算を各現場で機能させるには、「どんな会社にしたいか」という経営者のメッセージを従業員が共有し、経営者と従業員が深い信頼関係で結ばれている事が絶対条件だ。そうでなければ、手間のかかる計数管理を押し付ける事になり、組織が疲弊しかねない。
そのため稲盛は、アメーバ経営の土台として「フィロソフィ」と呼ぶ経営哲学を従業員一人ひとりに埋め込む。酒を酌み交わす「コンパ」を通じ、なぜ生きるのか、なぜ働くのかを自問自答させ、従業員が「利他の心」を血肉化する瞬間を待つ。
厳格な計数管理と深遠な理念の共有。次元の異なる2つの経営の大命題を両立させ、実証してみせたのが稲盛の功績だ。どうすれば儲かるかを教えるコンサルタントは山ほどいる。人生の処し方を説く先達もごまんといる。だが、一見矛盾するかのように見える2つの命題を両立させた人物は少ない。
この2つの大命題を解くカギ。稲盛はそれを経営手法にはなく、経営者個人にあると解き明かした。経営者個人の人間性に心から信頼を置いてもらう事で、従業員は「売り上げ最大、経費最小」に励み、フィロソフィを学ぶ。
まず経営者は、従業員を物心両面から幸せにする事を唯一の経営目的にする。従業員の物心両面の幸せを実現するために、地域一、日本一、世界一の企業になるという高い志を掲げる。そして高い志を遂行するために、経営者が私利私欲を捨て、日々誰にも負けない努力をする。つまるところ、経営者個人のストイックな人間性。これを経営の核に据える事で、初めて計数管理と理念共有が調和できるのだ。
思想家、中村天風の言葉の中で,稲盛が愛してやまないものがある。
経営者とは何か。稲盛の答えがここに凝縮されている。
「新しい計画の成就はただ不屈不撓の一心にあり。
さらばひたむきに、ただ想え、気高く、強く、一筋に」
著者 日経トップリーダー
日本経済新聞グループの日経BP社が発行する、オーナー経営者のための実務情報誌。 1984年に「日経ベンチャー」として創刊し、2009年から現誌名に。中堅・中小企業の経営トップに役立つ実践的な情報を厳選して、混迷の時代を勝ち抜き、未来を切り開くヒントとなる情報を届けている。
週刊 ダイヤモンド 2013年 8/3号 [雑誌] 紀伊國屋書店和書仕入本部係長 水上 紗央里 |
ビジネスブックマラソン 土井 英司 |
章名 | 開始 | 目安 | 重要度 |
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まえがき | p.1 | 2分 | |
第一章 稲盛和夫は語る | p.7 | 39分 | |
第二章 門下生は考える | p.79 | 54分 | |
第三章 経営者とは何か | p.179 | 14分 |
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「新しい計画の成就はただ不屈不撓の一心にあり。
さらばひたむきに、ただ想え、気高く、強く、一筋に」
2011-11-30
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