ハフィントン・ポストの編集哲学
ネットメディアと聞くと「低コストでスピード重視」を連想しがちだ。インターネットを使っているため、印刷費・配送費を浮かせる一方で、いわゆる市民ジャーナリストを使って人件費を節約する場合も多い。リアルタイムでの報道が可能で、速報ニュースに強い。悪く言えば、速さを優先して品質を二の次にしている。
だが、ハフポストは2012年にジャーナリズム最高の栄誉であるピュリツァー賞を、ブログサイトとして出発したネット新聞として初めて受賞した。ハフポストは優秀な人材に積極的に投資を行っているのだ。
編集長のハフィントンはどんな哲学でハフポストを編集しているのか。
彼女は「我々の使命は『データマイニング』ではなく『ストーリーテリング』。事実を報じるだけでは人々を感化できません。物語にこそインパクトがあるのです」と語っている。
データマイニングがいわゆる速報ニュースだとすれば、ストーリーテリングは長文の読み物であるフィーチャー記事に相当する。ハフィントンは「ハフポストの競争力の源泉はストーリーテリングにある」と強調したばかりか、既存の主流メディアについては「データマイニングばかりやっている」と一刀両断したのである。
アメリカの新聞界では「通常のニュース記事でも読み物として面白くなければならない」という考え方が根付いており、新聞記者も表現力で競い合っている。だからこそハフィントンも「データや統計を紹介するだけでなく、それを生身の人間物語で補強する」と強調するのだ。
ハフィントン・ポスト成功の秘訣
ハフポスト大成功の背景には、著名人によるブログ投稿に加えて、他メディアのニュース記事を集め、見やすいように整理するアグリゲーションがある。だがそれだけでニュースアグリゲーションの老舗グーグルニュースやヤフーニュースに匹敵する存在になるのは難しい。
大成功の秘訣は、「シックスディグリー理論(6次の隔たり)」「感染メディア」「検索エンジン最適化(SEO)」の3つの組み合わせである。検索結果を上位に表示させる高度なSEOと組み合わせる事でアグリゲーションが威力を発揮する。
ハフポストの背景には、シックスディグリー理論の社会学者ダンカン・ワッツ、感染メディアのネット起業家ジョナ・ペレッティ、SEOの天才技術者ポール・ベリーの3人がいた。各自がサイト設計、コンテンツの流布に携わり、ハフポストは「SEOの王者」と呼ばれるようになった。
ハフポストは創刊後、ウイルスのように急速に伝播しながらも一時的な現象で終わらなかった。粘着力があったという事だ。ハフィントンが自ら集めた「セレブブロガー」の威力は強力だった。ハフポストは、数年間の内にアクセス数で老舗のニューヨーク・タイムズと並ぶ存在になった。