「解決方法がない」を見つける
サイクルの最初にあるオンリーワン。これが需要創出への第一歩となるが、これを生み出すのも相当難しい。我々はお客様の話を聞く事から始める。全国約6万人のセールスドライバーが、お客様の細かなニーズを集めてくる。困っているけれども解決策のない事を探ってくるのである。ここにオンリーワン作りのヒントがある。
我々のビジネスが格段に広がったきっかけは、すべて「解決策がなくて困っている」という声だった。そこに着目する事から顕在化されていないニーズを探り当てた。オンリーワン商品を作る出発点は、必ずお客様の声であるべきなのだ。
狙いを絞り込む
「数兆円規模の市場で、ある事情に困っている企業が数千社あり、その潜在需要は1000億円です。だからうちはその10%を取りましょう」。現場からよくこんな事業設計が上がってくる。しかし、マーケットセグメントが大きすぎるとお客様のニーズは絞り込めない。そもそも巨大市場の10%を取るためにどんな商品を作るのか想像できるのか。
そうではなく、セグメントを絞り込む。絞り込んだマーケットの5割を取ろうと言う。1000億円の10%も200億円の50%も売上は同じ100億円。ニッチであるけど、その分独自性を出せる。
サービスが先、利益は後
これらをクリアした上で、商品の価格設定が利益の先取りになっていないかをチェックする。小倉昌男の経営哲学「サービスが先、利益は後」だ。お客様に喜ばれるサービスを開発し、価格は利用しやすい水準にとどめる。そうすれば需要は拡大して、利益は後からついてくる。
市場環境に応じて戦う土俵を変えていく
宅急便は新しい需要を生み出す一方で、他社の参入を拒まずに市場を拡大させる戦略をとった。競争相手が増えれば、それだけ需要も広がる。市場が拡大したら、次にすべき事は激しい競争を勝ち抜き、圧倒的なNo1になる事だ。そこで決め手となるのが他社との差別化である。
「スキー宅急便」「ゴルフ宅急便」「クール宅急便」「時間帯お届けサービス」。小倉昌男は宅急便という成功したビジネスモデルに安住せず、それを絶えず進化させた。
もっとも、どんなに成功したビジネスモデルでも、必ず成熟期を迎える。2000年代に入ると、宅急便市場も徐々に成熟していった。同時にライバルとの品質格差は年々縮まっていった。すると、品質や利便性より料金で選ぶお客様が出てくる。業界全体が不毛な価格競争に陥りがちになってしまう。
そこで大きな方向転換をした。「これからは宅急便の荷物だけを取りに行くな」。グループ各社が持つ機能を組み合わせてトータルの物流改革を提案する。商品単体で差別化するのではなく、グループ各社が力を合わせ「機能」を超える「仕組み」の違いでNo1を維持する必要があったのである。