使えない戦略
①『コア・コンピタンス経営』
ゲイリー・ハメルとプラハラードは、それぞれの会社が現在保有している製品や組織は表面的なもので、それらを現出させている根源的能力(コア・コンピタンス)が企業の中にある、と考えた。
ポーターの場合は「どこの業界に参入するか」というポジションを戦略の枢要と考えたが、ハメルたちは自社のコア・コンピタンスを押し立てて成功して「新しい産業を創出したり古い産業を再生する」という地平までを啓蒙している。しかし、実際には世の中に存在する多くの会社では、力強いコア・コンピタンスを持っていない。
さらにハメルたちは「10年後の市場の状況を見晴らかし、それに対して今備えよ」と呼び掛けているが、10年後の市場の状況がわかる経営者などいるのか。
②『エクセレント・カンパニー』
同書ではエクセレント・カンパニーの企業事例として14社挙げられている。しかし、2001年の時点で4社を除いてすべての会社が倒産や他社に吸収、大規模なリストラに見舞われていた。その年、著者トム・ピーターズ自身が「エクセレント・カンパニーの中で我々はデータをねつ造した」と認めてしまった。
経営実務家が実践している経営行動は、数百あるいは数え方によると無限にあり、それらはすべて重要なものだと考える事ができる。どれか特定の経営行動を並べられて「これが重要だ」と言われると、反論のしようがない。
③『コーペティション経営』
「コーポレーション(協力)」と「コンペティション(競争)」を同時に繰り出して、競合会社は共に成果を上げようという提言。このゲームセオリーは、適用範囲の限定された、実用性の低い戦略論である。競合が1社だけの場合、「あちらはどう出るかな?」くらいには使えるかもしれない。でもそんな状況ならこんなセオリーを持ち出さなくても見当はつく。
④『ブルー・オーシャン戦略』
この戦略の人気が出たのは、その理想性にある。「競争のない市場空間を切り開く」事は確かに素晴らしい。問題は、当社にそんな能力があるかだ。当社が成功領域を見つけたと知るや、他社は必死の思いで追いかけてくる。一番に何かを実現するより、模倣する事の方が簡単である。ブルー・オーシャン戦略というのは初めから論理破綻したセオリーだ。
ブルー・オーシャンが実現すると「多くの場合、10年から15年もの間大きな挑戦を受けずに持ちこたえる」としている。この成功事例として、シルク・ドゥ・ソレイユとイエローテイルというオーストラリアの廉価ワインを挙げている。しかし、2013年に前者はリストラを発表、後者は倒産可能性が報道されている。長期に続くブルー・オーシャンなど難しい。