問題はデフレで、その克服のためにインフレを目標にする?
「インフレになれば、需要が増加し、給料が増える」というロジックには無理がある。確かに先行きのインフレ期待が強まれば、早いうちに物を買っておこうというインセンティブが強まり、需要は一時的に増加する。しかし、企業や個人が将来に対する不安を抱えたまま、インフレ期待だけで増加した需要は一時的なもので終わってしまう。単に、将来の需要を先食いしているだけだ。
「一時的にせよ需要が増えれば、それが収益の増加に寄与して、賃金の上昇につながる。賃金が上昇すれば、根本的な需要が増加する」という反論があるかもしれない。
しかし、高度成長期ならまだしも、現状において一時的な需要増加を背景に、企業がインフレ率以上に賃金を引き上げると考えるのは幻想に近い。最近、政府の要請を受けてか、ボーナスを引き上げる企業も出てきた。しかし、企業の収益体質や世の中の需要に変化がない中で、賃金を無理矢理引き上げれば、それは将来の採用減につながるだけだ。
本来の課題は「デフレ」ではなく、その原因たる「需要がない」事であり、政策の主要テーマは「需要の創出」だ。企業や個人が将来に明るい希望を持ってリスクをとれる世の中を創る事である。そのためには、インフレ率を上げる事ではなく、民間経済の活力回復につながるような規制緩和や構造改革、税制改正、年金改革こそが求められている。
日本の家計が保有する金融資産の半分以上は現金・預金であり、需要が増えない中でインフレ率だけが上昇したら、経済的弱者の生活は悪化し、貧富の差は拡大する。
日銀が国債を引き受けるとハイパーインフレになる?
日本でも十分にハイパーインフレが起こる可能性がある。但し、現在のように極端な財政支出拡大を伴わない限りにおいては、発生の心配はない。
日銀が国債を引き受けただけでハイパーインフレは発生しないだろう。なぜなら、インフレになるかどうかは、日銀が国債を購入する際に支払った資金が市中に供給され、皆さんの手元に渡るかどうかにかかっているからである。現在、日銀は資産買入等の基金を通じて国債を購入している。しかし、日銀が供給した資金は銀行の当座残高に積み上がるだけだ。そして、その銀行は当座預金に積み上がった資金を使って、また国債を購入する。
ハイパーインフレは、まず日銀が政府から国債を直接かつ無制限に購入する事から始まる。時の為政者は、無尽蔵にお金を配る権力を手に入れ、自らの支持率を上げるために大盤振る舞いを始める。これが相当大規模で、かなりの企業・個人が恩恵を受けるような場合に、お札が世の中に散乱し、お札の価値が下がっていく。これを繰り返すうちに、世の中の物価が取り返しがつかないぐらい上昇してしまう。