コスト削減ほど易しい経営はない
QSCという「基本」に立ち返るために、単なる「原点回帰」ではなく、「革新的な手法」で立ち返ろうとした。例えば、全店に速やかに新厨房システムであるメイド・フォー・ユーを導入するよう厳命した。作りたての商品をお客様にお出しするための厨房機器は、QSC向上のための大きな武器になると考えた。
業績悪化に苦しんでいる最中には、手痛い出費なので、反対意見ばかり出た。しかし、これは再成長のために不可欠な「投資」だと押し切った。改革というと、みんなコスト削減から始める。そんなのは誰だってできる。コスト削減ほど易しい経営はない。
僕は「コストをカットするな。もっとお金の使い方の提案を持ってこい」と言う。経営資源を賢く再配置、再配分するのが本来のリストラである。単純に社員を減らすとか、コストを削減することじゃない。経営とは、要はお金の使い方を考えることだ。
戦略の「順序」を考えよ
ある戦術を実行するためには、その戦術が実行できるための環境を整えておかなくてはならない。パズルを1つひとつ組んでいくように、戦略実行のシーケンス(物事の順序)を考えるのが経営戦略というもの。
経営にとって「やるべきこと」というのは大抵はっきりしている。例えば、客数を増やす。客単価を上げる。コストを下げる。それらの取り組みによって売上高と利益を上げる。ただ、それらを全部一度にやったら、どれも実現できなくなる。
「客数を増やす」と「客単価を上げる」と「コストを下げる」。これは矛盾している。だが、経営というのは、矛盾をどう乗り越えるかということだ。
2001年にはQSCが悪化して顧客に提供する価値の水準が落ちていた。そんな中で、「世の中がデフレだから」と価格を下げても「安かろう悪かろう」を自ら認めるようなもの。2004年以降、まずQSCを引き上げた。その結果、顧客の価値認識が上がる。その上で「100円」を打ち出した。100円メニューの導入で客数は増えて、逆に客単価は落ちた。今度は取り戻した客数を武器に、付加価値の高い新メニューを投入し、さらに値上げを実施した。結果、客数は落ちて客単価が伸びた。
「客数」と「客単価」、2つの指標を上下させながら、少しずつベースラインを上げていくナビゲートが必要である。「QSCの向上」→「100円メニュー」→「値上げ」。このシーケンスには必然があった。