現場の力を活かす
ヤマト運輸に入社してくる者は、一流大学を出た偏差値が高い人ばかりではない。例えばヤマト運輸には、その多くが「セールスドライバー」として入社してくる。彼らは現場の最前線でお客様に接するセールス部隊だが、一般的なイメージは「荷物を運ぶ、力仕事をしている人たち」ではないだろうか。
しかし、そうしたセールスドライバーが入社後、現場でお客様のニーズに日々接する中で新しい仕事のアイデアを思いついたり、日々の業務を改善できる可能性に気付いたりして、それを会社側に提案する事は、珍しい事ではない。その結果、新規事業を行う子会社の社長や、役員になる者もいる。すべての社員が試行錯誤しながら、組織を変革するような行動を自ら進んで起こす。だから、小倉亡き後も持続的な成長を続ける事ができている。
「世の中のために何かをする」が社員の満足感を高める
では、ヤマト運輸が「DNA」のように社員に浸透させている理念とは何か?
繰り返し言われ続けるのは、ただ「世のため人のためになる事をする」ということ。現場では「お客様のためになる事をする」という、ただその一言だけだ。会社としての利益よりも、「世のため人のため」や「お客様のため」を優先する。
「お客様のため社会のため」で意思統一できる会社組織があるとすれば、それ以上強固なものはないのではないか。「世の中のために何かをする」時、私達が仕事を通して手に入れられるのは、自分自身の存在価値であり、「やっていてよかった」という究極の満足感である。それを体験した社員達が、夢を持って日常の仕事に励む。
これを理想論に終わらないように、様々な試みを行っている。その一例が「お客様のため社会のため」に仕事をしている社員が数値的に評価される「満足BANK」だ。これは「あの人がお客様に褒められた」など「いい事」をした人を見つけたら、それを各社員が申告する制度だ。点数の高い人は評価される。
「何のために仕事をするのか?」を認識させる
強いリーダーという強烈な個性が失われると、次第に創業時の精神が薄れていく事は珍しくない。ヤマト運輸は「世のため人のため」の精神を失わないためにどのような事をしているのか?
例えば、ヤマト運輸の社員であれば、業務内容を問わず、新人の頃から何度も見る『感動体験ムービー』という研修用の映像がある。これはお客様を相手に働く社員達の行動と、セールスドライバーを中心とした社員達の声が淡々と紹介されているものだ。簡単に言えば「仕事をしていて感動したこと」をまとめたものだ。
この映像を通じて、社員は「自分達が何のために仕事をするのか?」を理解する。