成熟期の日本では、イノベーションは必ずしも有効ではないと説き、新しく価値を発明する「リ・インベンション」の考え方を提唱。ネスプレッソやダイソンの羽根のない扇風機など、9つの事例を挙げ、他社の真似できない製品づくりのヒントを紹介しています。
■イノベーションは空しい
イノベーションに成功すれば、消費者を満足させた上で、企業も利益を得られる。そう信じて日本の製造業各社はイノベーションに邁進してきた。しかし現実を見ると、消費者の生活は豊かになったが、肝心の企業は必ずしも利益を上げるに至っていない。高い技術力を活かした各社の製品は、いずれも努力が報われない結果に終わっている。そのパターンは2つある。
①イノベーションで生まれた製品が消費者に受け入れられなかった
ex.ソニーのデジタルマイクロレコーダー:開発に11年かかるも4万台で生産終了
②好意的に受け入れられたものの企業側の利益には結びついていない
ex.カシオのコンパクトカメラ:平均単価が年々大きく下落
日本が苦境を脱する上で、イノベーションに解がなかった事は歴然としている。
■イノベーションとリ・インベンションの違い
リ・インベンションとは「狙い定めた事物をゼロから再発明する」という意味である。イノベーションとリ・インベンションの違いは次の3点に集約される。
①狙いの違い
イノベーションは表面的には高付加価値化を狙うが、その基準点は競合製品に置かれる。だから、競合製品と比べた総体優位が争点になる。一方、リ・インベンションは、従来製品では満たされていなかったニーズに応えるところに狙いがある。これは相対尺度で測るものではない。
②従来のパラメーターに対する態度の違い
イノベーションは競合製品との差異化を狙うので、従来のパラメーターを肯定的に捉える。一方、リ・インベンションは、従来のパラメーターでは捉え切れていない不合理の解消に狙いがあるため、パラメーターを否定する。
③必要とされる力の違い
イノベーションの成否は技術的なブレークスルーを生み出せるかにかかっている。そこでは組織的な技術力が問われる。一方、リ・インベンションの成否は誰に、何を、どのように提供するものなのかというコンセプトにかかっている。そこでは必ずしも技術力は必要なく、構想力が問われる。
計測可能な固定パラメーター上で抜きつ抜かれつの競争を演じれば、同質化が進み、泥沼に陥るのは当然である。リ・インベンションは、新しい評価軸を創り出す事でこの問題を回避する。評価軸は主観的かつ感性的なので、他社が真似しようとしても解釈に差が生じ、同質競争にならない。
リ・インベンションが泥沼の競争から抜け出す手段となりうるのは、消費者の共感を生むからである。その共感は「インテグリティ(全体として1つにまとまった状態)」から生まれる。
著者 三品和広
1959年生まれ。神戸大学大学院経営学研究科教授 ハーバード大学ビジネススクール助教授、北陸先端科学技術大学院大学知識科学研究科助教授等を経て、神戸大学大学院経営学研究科教授。
著者 三品ゼミ神戸大学大学院経営学研究科、三品和弘教授のゼミ。
ビジネスブックマラソン 土井 英司 |
日本経済新聞 |
TOPPOINT |
日経トップリーダー |
週刊 東洋経済 2013年 5/18号 [雑誌] 福井県立大学地域経済研究所 特任教授 中沢 孝夫 |
エコノミスト 2013年 6/11号 [雑誌] 甲南大学特別客員教授 加護野 忠男 |
章名 | 開始 | 目安 | 重要度 |
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まえがき | p.3 | 5分 | |
第1章 織機の快挙と悲劇 | p.16 | 14分 | |
第2章 西洋芸術史の教訓 | p.35 | 16分 | |
第3章 脱イノベーション | p.58 | 16分 | |
第4章 起業家の挑戦 | p.82 | 29分 | |
第5章 企業家の挑戦 | p.122 | 34分 | |
第6章 大企業の挑戦 | p.170 | 27分 | |
第7章 製品企画へのヒント | p.210 | 18分 | |
第8章 推進体制へのヒント | p.235 | 17分 | |
第9章 企業改造へのヒント | p.259 | 19分 |