見たまんまが本当の姿とは限らない
相手の振る舞いをその人の性格によるものとみなす傾向は、そのような方法で捉えた方が、周囲の世界を安定した予測可能な場所にできるからである。人の姿は目に見えるが、状況は見えにくい。状況には気づきにくいため、よほど気をつけていなければ、その影響を見逃してしまう。
「見たまんま」の魅力に屈する理由には、私達自身が状況の力に気づきたくないという事もある。「見たまんま」であれば、世界を安定した場所とみなし心煩わされる事が1つ減る。自分が物事をコントロールしているという感覚が1つでも増える。「人の振る舞いは予測できる」という過信は私達を安心させる。
「見たまんま」と闘うためには、そもそも「見たまんま」という考え方が存在する事に気づかなければならない。誰かの振る舞いを見た時、それがその人の「本当の姿」だと早合点しないこと。
人間の行動は周りに左右される
人間の行動は状況によって大きく左右される。だから人を「普段から親切な性格か、不親切な性格か」で分類しても何も始まらない。自分以外にも大勢の人間がいるという状況は、他のどんな要因よりも、人を助ける行為に強く影響する。私達は大勢の人間と一緒だと「責任がない」「誰か別の人間が代わりにやる」と連想し、積極的に行動しなくなってしまう。人を助けるか否かという判断の根底には、無意識にしろ、損得勘定が働いている。
必要な助けを得るための秘訣は、「匿名性」と「曖昧さ」という2つの障壁を打ち破る事だ。確実に助けを得るためには「直接」かつ「具体的」に訴えかけなければならない。
75%の人を屈服させる「同調」の威力
社会心理学者ソロモン・アッシュは、長さの異なる3本の棒の中から、1本だけ描かれた棒と同じ長さのものを選ばせる実験を行った。この時、例え答えが間違っているとわかっている場合でも、4人に3人が間違った答えを真似た。その方が集団の結束を乱すよりも楽だからだ。
私達は自分で自分の運命を決めているつもりでも、思考や行動は周囲の人間から大きな影響を受けている。鍵を握るのはたいてい規範だ。規範に従えば、社会を有効に機能させられる。しかし、私達はあまりにも頻繁に自分を周囲に合わせてしまい、その事が「自ら考えて行動しなくてもいいモード」になってしまっている。
覚えておくべき事は、誰かの態度や行動に影響を与えたい時は、周囲に同調するという人間の傾向をうまく利用できるという事だ。新しい規範を作り出すためには、相手に真似て欲しい行動を、まずお手本として示そう。募金入れのビンには最初から数ドル入れておく、客を集めたい場合は、友人に頼んで長い列を作ってもらうのだ。