人間の思考や行動が、いかに周囲の状況に影響を受けているかを、様々な事例をもとに解説した本。状況の力を認識すれば、実生活にもっとうまく対処できる有能な人間になれると説く。
■人は「見たまんま」でダマされる
取り巻く社会をどう捉え、どう相互に作用するのか、その大部分を決めるのは私達が直に接する状況である。日常的な状況のごく些細な事と思える側面が、人間の様々な活動を決定する。ところが、私達は状況の力を正しく理解していない。私達は「見たまんま」という考えを受け入れ、ある時点で目撃した誰かの振る舞いが、その人の「本当の人間性」を正しく映し出していると思い込んでしまう。
だから、注文を間違えたウェイターは「使えないヤツ」で、メールの返事を寄こさない同僚は礼儀知らずと決めつける。しかし、無能なウェイターはナイトクラブで素晴らしいギターの腕前を披露し、あの時は何らかの事情で注文を間違えただけかもしれない。同僚はコンピューターウイルスのせいでメールを受け取れなかった可能性がある。
人間が状況の持つ力を忘れてしまうのは、日常生活のほとんどが慣れ親しんだ環境で、いつも決まった方法で営まれるからだ。私達は事実は反対だという確たる証拠があっても、誰かの振る舞いを、内在的な理由や原因によって説明しがちだ。
■「本当の自分」なんて存在しない
状況の力は日常生活だけでなく、「自己をどう捉えるか」という自己認識のプロセスにも大きな影響を及ぼす。つまり「自分はこういう人間だという自己感」でさえ、自分がどこで誰といるかによって左右される。
ある研究によれば、人間には「それぞれの存在を特有のものにする」観点から自己を捉える傾向があるという。講義室で学生に自分のアイデンティティを書き出してもらうと「学生です」という回答はまず出てこない。ところが、鉄道駅や病院の待合室では学生という立場が彼ら特有の特徴となり、それを書き込むという現象が起きる。
人間行動学の専門家の一致した発見によれば、人生に対する満足度でさえ「柔軟性」がある。あなたは人生にどのくらい満足しているか? それは時と場合によりけりだ。自分の行動や選択、決断の理由を自分の心に問いかける時、何かしらの考えは浮かぶ。しかしそうして得られる情報の大半は、その時点で浮かんだ解釈に過ぎない。
私達の世界観の多くは比較の上に成り立っている。人は、過去の自分と現在の自分とを比較する。自分が理想とする人生と現実とを比較する。ところが、自己認識を導くそのような比較がすべて、自分の内面を見つめて得られたものとは限らない。誰かとの比較によるものも多い。要するに、自分自身に対する情報源の1つは他の人達なのである。
自己認識が状況や周囲の人間にさほど左右されない時でも、「本当の自分」は捉えにくい。私達は普段、正確さよりも、自分の気持ちを高揚させ、自我を満足させる事に焦点を合わせがちだ。ポジティブな幻想を抱く事で惨めな気持ちを抑え、自信喪失の泥沼でもがき苦しまずにすむ。
自分をあるがままに見る方法なんて忘れた方がいい。それよりも、自己が柔軟なものだという考えを受け入れた方がいい。
著者 サム・サマーズ
タフツ大学心理学部教授 社会心理学者で、専門は偏見、ステレオタイプ、性別・人種・社会階層についての認識、判断や意思決定、グループプロセス、心理学的見地から見たアメリカの法律など多岐にわたる。 特に偏見、ステレオタイプの分野での研究で知られている。その研究は、報道番組『グッド・モーニング・アメリカ』や『ハーパーズ・マガジン』誌、『ワシントン・ポスト』紙、『ロサンゼルス・タイムズ』紙、公共ラジオ局『NPR』など多数のメディアで紹介された。 何度も教授賞に輝いた経歴を持ち、2009年には学生評議会によって年間教授賞に、また学生新聞によって、タフツ大学で最も“ホットな"男性教授に選ばれたこともある。
帯 デューク大学教授 ダン・アリエリー |
週刊 ダイヤモンド 2013年 6/22号 [雑誌] 丸善・ジュンク堂書店営業本部長 宮野 源太郎 |
章名 | 開始 | 目安 | 重要度 |
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第1章 この世は「わかったつもり」でできている | p.1 | 35分 | |
第2章 助けるかどうかは「周り」を見てから | p.43 | 35分 | |
第3章 「みんなの意見」はいつだって正しい? | p.85 | 37分 | |
第4章 「本当の自分」なんて探しても見つからない | p.129 | 30分 | |
第5章 「男らしさ」と「女らしさ」は、生まれつき決まっている? | p.165 | 32分 | |
第6章 好きも嫌いも「見覚え」次第 | p.203 | 30分 | |
第7章 この世の誰もが持つ「偏見」というメガネ | p.239 | 35分 | |
エピローグ 「考えてるつもり」から自由な人生を! | p.281 | 10分 |
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