人を通して本を知る
出版業界は20〜21世紀にかけて出版点数を鰻登りで増大させた。1冊を1時間で読める速読術を学んだとしても、1日に読めるのは、せいぜい8冊程度。これを80年間続けたとしても、一生に読めるのは約23万3千冊。これは、現在の新刊発行点数の3年分に過ぎない。
僕たちは職業や置かれている状況、生まれも育ちも違うし、一人ひとりにとって読んで為になる「いい本」は違う。そんな中で、どうすれば「いい本」に出会えるのだろうか。
①権威・人気
GoogleやAmazonが登場する前から、僕たちは自分が知らない誰かの薦めで本を買う事があった。それは雑誌の書評だったり、教師からの推薦であったり、書店の売上ランキングだったりした。この前提にあるのは「いい本」は読み手に拠らずにある程度決まっており、皆がそれを読むべきだという世界観だ。権威や人気に基づく本との出会いでは、読者1人ひとりの個別性が考慮される余地はない。
②ディレクトリ構造
増えてきた書籍は、分類学的に整理された。この問題は、利用者が分類項目の意味を理解しておかないといけない事である。
③キーワード検索
キーワード検索は自分で検索というアクションを起して探し出さないといけないため「探したい本」が前もってある事が前提となっている。だから、思いもしなかった本との偶然で良質な出会いは起きにくい。
④協調フィルタリング
Amazonのように、ユーザーの検索・購買履歴などから、ユーザーの興味に合うであろう書籍を推薦する。欠点は「この商品を買った人はこんな商品も買っています」という基準なので「類似している」本しか出てこない事だ。
⑤ソーシャルメディア
ソーシャルメディアが介した推薦がうまくいくには、その人自身を直接知っていたり、その人の興味が自分に近い事を知っている必要がある。
この5つの違いは、何の情報を使って本をフィルタリングするかという点にある。ビブリオバトルでは集まってきたメンバーから本を紹介してもらう。しかも、それはそのメンバー達が自ら見つけた書籍の中から、「このメンバーならどんな本がオススメか?」を考え、フィルタリングした上で持ってきた本なのである。
本を通して人を知る
ビブリオバトルは「人を通して本を知る」だけでなく「本を通して人を知る」場であるというところにこそ、真の魅力がある。
書籍は本来、著者の考えを読者に伝えるメディアである。これに加え、書籍は読者の考えを読者に伝えるメディアにもなる。ビブリオバトルにおいて発表者がある本について語る事で、書籍はその発表者の考え方や解釈、人となりを参加者みんなに伝えるメディアとしても働くのだ。人が自分の紹介したい本を持ってきて、本について語る事にこそ、「人を知る」上で重要な意味があるのだ。