ポール・グレアム
YCの原動力となっているのは、元起業家のポール・グレアムだ。1995年にYCの創業者となる直前、グレアムは、後に彼が創業者として理想的だとして挙げる資質(スタミナ、貧乏、根無し草性、同僚、無知)をすべて備えていた。
グレアムが考えついた最初のアイデアは画廊にオンラインストアを提供するソフトウェアの開発だった。しかし当時、絵のオンライン販売などという事に興味を示す画廊のオーナーなどいるはずがなかった。顧客が絶対に欲しがらないプロダクトを作って懲りたグレアムは、ショッピングカートを装備した画廊向けのソフトウェアを他のスモール・ビジネス向けのオンラインストアとしても利用できるのではないかと思いついた。そこで「ヴィアウェブ」というスタートアップが作られた。
3年後にヤフーから5000万ドルで買収のオファーが来た時、ヴィアウェブはほとんど資金が尽きかけていた。ヤフーはヴィアウェブを「ヤフー・ストア」と改名した。それから7年後、グレアムはYCのアイデアを思いつく。
人が欲しがるものを作れ
スタートアップに個人投資家が投資する事は以前から行われていた。しかしYCは、定期的に多数のスタートアップに同時に投資を行うという方式を編み出した。YCが最終候補として面接に呼ぶのは2000組の応募チームのわずか9%以下だ。そして2011年夏学期には、2000チームから64チームが選ばれた。
YCの最大のモットーは「人が欲しがるものを作れ」だ。グレアムは言う。「アイデアを生み出すための3カ条だ。①創業者自身が使いたいサービスであること、②創業者以外が作り上げるのが難しいサービスであること、③巨大に成長する可能性を秘めていることに人が気づいていないこと」
グレアムは優れたアイデアというのはいくらでも転がっていて、誰かが拾い上げるのを待っているのだと説明する。
クレージーであれ
YC発のスタートアップの中には既にドロップボックスやエアービーアンドビーなど、大成功を収めたチームがいくつか存在する。しかし、YCに選ばれたスタートアップといえども全体としての成功の確率は決して高くない。だからスタートアップの創業者はこの馬鹿げたほど低い成功の確率を無視して突き進むために、時にクレージーである事を求められる。
YC投資先の最も評価額の高い21社の評価額の合計は47億ドルになる。但し、その大部分はドロップボックス、ただ1社が占めている。YCは出版や音楽のような1つの大ヒットに頼るビジネスなのだというのが正確な表現かもしれない。
グレアムはスタートアップを始めるのに向いている人間はごく少ないと主張している。しかも誰が向いているのかを事前に知る方法はない。知る唯一の効果的な方法はたくさんの人間にスタートアップをやらせてみることだ。