優れた意思決定の鍵
意思決定は、以前よりも最前線にいる従業員によって下される事が多くなり、より分散化し、よりチームベースとなっている。4つの主要なトレンドが新しいパターンを形成し始めており、このパターンが将来の優れた意思決定の鍵になる。
①「全員よりも賢い個人はいない」という認識
②多くの人の知恵だけではなく、彼らのリーダーシップをも引き出す
③データと分析を、決定の補助や根拠として使う
④ITによって組織のより良い判断が直接生み出される
打ち上げを許可するべきか(NASAの事例)
2009年2月、NASAの技術者と科学者は、乗組員の生死を分ける可能性のある重大な決断を迫られていた。STS-119の打ち上げを許可するべきか否か。この時問題となっていたのは、燃料をエンジンに供給するシステムに不完全なバルブが存在する可能性がある事だった。この技術問題は、結局3回の会議を経て、ようやくゴーサインが出た。会議では約150名が1つの部屋に集まる。会議の前には、小規模なチーム会議と技術審査が行われ、議論と分析がなされる。
NASAのスタッフは、技術的な不安があれば、スケジュールや生産性よりも飛行の安全性を重視し、遠慮なく打ち上げを延期する。問題解決と意思決定のプロセスがよく機能している事に加えて、オープンなやりとり、多様な意見の尊重、反対意見を述べる権利の容認という文化が柔軟性を与えている。安全と正しい判断への責務を果たし続けるには、プロセスと文化の両方に対し、絶えず用心深く注意を払い続ける必要がある。
サブプライムローン債権を投資家に推奨するべきか(バンガードの事例)
資産運用会社バンガード・グループの新米アナリスト、メイベル・ユーの仕事は、確定利付き証券を評価して、提言する事だった。ユーが評価していた債券の評価は、主要格付け会社によってAAAがつけられていた。
ユーは取引の背後にある抵当の信用の質が低下している事が気がかりだった。この頃「サブプライム」ローン産業が花盛りで、収入や返済能力を示す書類を提出できない人でも、貸付けを受けられるようになっていた。格付け会社は、過去のデータを使って将来の損失率を見積もっていたが、このような借り手も商品も過去のデータに存在していなかったため、彼らの予測は不適切だった。
バンガードは、しっかりとした価値観と文化を持っていた。
・短期間で儲かる投資ではなく長期的な戦略を追求する
・自分たちが完全に理解していない金融商品に投資すべきでない
・一般投資家に心を注ぐ
これは、メイベル・ユーが自社の投資家のために外からの圧力に抵抗して、正しい決定を下すのを助けた。バンガードの文化は社員が反対意見を言える環境をつくっている。これも質の良い決定プロセスの重要な要素である。