良い先送りと悪い先送り
現代社会は生産性と効率にとりつかれている。そして先送りを軽蔑する。1970年代から「今すぐやる」「ぐずぐずしない」を推す産業がキラ星のように登場する。ドラッカーは「第1優先事項をまず第1に。第2事項には手を出さない」と言い、スティーブン・コヴィーは、できる人は優先順位の高い事を先にこなす、と説いた。
昔からそうだった訳ではない。古代エジプトやローマでは、先送りは有益で賢い行動と思われていた。18世紀半ばまで、先送りを敵視する見方はむしろ少数派だった。現在、経済学から歴史学まで、多種多様な学問が先送りに関する様々な啓示をもたらしているが「統一理論」は存在しない。一つだけほぼ全員が同意するのは、人間は先送りをしたがるものだという点である。今すぐ行動を起こす事のコストが、実際以上に大きく感じられて、家事、試験勉強、メールの返信等を先延ばしにする。
よい遅延と悪い遅延を見分けるにあたっては「時間的不整合性」が重要な意味を持つ。時間に対して一貫性を持ち、適切な割引率を採用するのであれば、判断を先送りするのはなんら悪い事ではない。問題は、先送りをする事のメリットを見誤る時である。割引率の高い人は、あまり成功した人生を送っていない。体重は重く、借金も多い。給料の安い仕事に就き、離婚率も高い。人間はついつい未来の出来事を大幅に割り引く。
悪い先送りを止めるには、短期に対する割引率を低くして、長期の割引率に近い合理的なレベルに揃える方法を見つけるのだ。まずは自分が陥りやすい傾向を自覚する事から始めるといい。
最高の投資戦略は「何もしないこと」
賢い先送りをするコツは、目の前の結果と先の結果を比較できるようになる事だ。真に能力のあるプロフェッショナルは、迅速に行動する力を持ちながら、意図的に遅れ気味な行動を選ぶ。彼らは直感と分析の両方を駆使する。勢いに流されず、自分が動くべき理想的なタイミングを待つ。意思決定までどれくらい時間があるか見極めて、与えられたタイムフレームの中でぎりぎりまで待つのである。
投資家は特定の数字や考え方に縛られ、大多数の動きに流され、過敏に反応したかと思うと、自信過剰にもなる。そしてリスク評価というものが極めて苦手だ。必要以上に頻繁にトレードをしたり、不当に高い金額を払ったりしてしまう。
一方で極めて良好な成果を出している投資家もいる。その一人はウォーレン・バフェットだ。成功者達には一つ重要な共通点がある。長期的な視野に集中しているのだ。バフェットは、自らの成功の一因が、決断を急がない点にあると言っている。「我々の仕事は、行動を起こす事によって報酬が得られる訳ではない。正しい判断をする事によって儲けが入るのだ。そのためにどれくらい待つかと問われれば、永遠でも、と答えよう」