尺八奏者である著者が、伝わるコミュニケーションをつくるための、声の出し方、呼吸法を紹介。芸能人の声を事例に、伝わる声とはどのようなものかを分析しています。
■日本人が失った「伝わる声」
私達が耳にするほとんどの音は「基音」と「倍音」の組み合わせでてきている。基音は音の高さを決め、倍音は主として音色を決めると言われている。例えば、同じ「あ」の発音でも、うれしそうな「あ」もあれば、苦しそうな「あ」、悲しそうな「あ」もある。この違いは、それぞれの「あ」に含まれる倍音の違いによる。
日本人は倍音を発する、受け取る身体と、倍音から様々なメッセージを読み取る鋭敏な感性をあわせ持っている。その要因は、日本語にある。日本語は「母音中心」であるという言語的な特徴から倍音の宝庫なのである。日本人は、日本語を使ううちに倍音をコントロールする術を身に付けてきた。そして、日本人は特に非言語的な、音響によるコミュニケーションに重きを置いてきた。同じ言葉でも、それをどう響かせるかで、相手が受け取る印象に無数のバリエーションをつくる事を行ってきたのである。
ところが、現代の日本人の声は変わってしまった。その背景には、日本社会の欧米化に伴い「よい声」の定義が変わってきている事がある。口を大きく開ける西洋式の発声では、倍音の成分が少なくなってしまい、日本語の発音には適さない声になる。
■日本古来の呼吸法「密息」
日本人が倍音に自然と親しむようになった要因には、日本語の特徴以外に「密息」という呼吸法がある。密息の特徴は3つある。それは「骨盤を後ろに倒して」「お腹を膨らませたまま」「横隔膜だけを上下させて」息をする呼吸法である。
仕事から疲れて家に帰ってきて、椅子に座り「ふうううっ」と大きく息を吐く、あの時の呼吸に近い。骨盤は後ろに倒れている。密息はとても深い呼吸ができる。一度に吸える・吐ける息の量が、胸式や腹式よりもはるかに大きくなる。脳が活性化し、集中やリラックスも簡単にできるようになる。密息は身体の感度を高める呼吸でもあり、倍音のように繊細な情報をやりとりできる身体をつくる。
日本人が密息を身に付けていた大きな要因は、帯の使用。明治以降は密息が失われていった説明にもなる。着物を着て帯をすると、着崩れないように帯とお腹で着物をはさむようになる。そのために日常的に密息によって、お腹を張りつめ続ける必要があった。
密息は、五感を鋭くし、倍音というデリケートな情報をキャッチするために欠かせないものである。密息を身に付けるには、以下のトレーニングを行う。
①椅子に座り、骨盤を倒す練習をする
②下腹に手をあてる
③下腹を膨らませながら息を吐く
④下腹を膨らませたままで、少しだけ息を吸う
⑤また下腹を出すつもりで息を吐く
⑥④と⑤を繰り返す
呼吸は新たなコミュニケーションを開く鍵となる。
著者 中村明一
作曲家、尺八演奏家 横山勝也師、多数の虚無僧尺八家に師事。米国バークリー音楽大学およびニューイングランド音楽院大学院にて作曲とジャズ理論を学ぶ。虚無僧に伝わる尺八古典曲の採集・分析・演奏をライフワークとしつつ、ロック、ジャズ、現代音楽、即興演奏、コラボレイション等に幅広く活躍。世界40カ国余で公演。 文化庁芸術祭賞など受賞歴多数。洗足学園音楽大学大学院、桐朋学園芸術短期大学講師。日本現代音楽協会会員。
帯 明治大学文学部教授 齋藤 孝 |
章名 | 開始 | 目安 | 重要度 |
---|---|---|---|
はじめに | p.2 | 3分 | |
第1章 日本人が失った「伝わる声」 | p.15 | 13分 | |
第2章 伝わる人は二つの「倍音」を操っている | p.41 | 18分 | |
第3章 倍音コミュニケーション術 | p.77 | 22分 | |
第4章 「密息」による身体の使い方 | p.119 | 19分 | |
第5章 密息で「伝わる身体」を取り戻す | p.157 | 20分 | |
おわりに | p.196 | 1分 |
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