顧客視点に基づいたサプライチェーンを構築する事で、さらなる価値を創造し、成長と利益を生み出す事ができる。ZARAやデル、ウォルマートなどの事例を挙げながら、流通チャネルを転換する事の重要性を説き、新たな戦略のフレームワークを提示しています。
■チャネル・スチュワードシップとは
技術革新の結果、顧客への接触が容易になり、取引が迅速化され、統合されたビジネスプロセスを手に入れる事が可能になった反面、流通チャネルは昔のままである事が多い。これには主に3つの理由がある。
①流通の変更には、多くの関係者を巻き込む必要があり、数多くの要因が影響する。
②チャネルシステム全体を俯瞰している者がいない。
③既存チャネルのあり方こそが、顧客に到達する最善策だという認識が根付いている。
企業は、市場へのアプローチ方法を変えるべきである。これを「チャネル・スチュワードシップ」と呼ぶ。「チャネル・スチュワードシップ」とは、流通チャネル参加者のうち、誰か一人がリーダー(スチュワード)となってチャネル戦略を作り上げ、顧客にとって最も良い事を行い、同時に、チャネル・パートナー全員が利益を享受できるようにする事である。このリーダーの役割は、製造業者、組立て加工業者、中間業者など、顧客のバリューチェーンに参加する誰でも担う事ができる。
■チャネル・スチュワードシップの目的
チャネル・スチュワードシップの核となる考え方は、ディマンドチェーン(顧客の要望)に働く力と自社のチャネル能力とを理解し、調和させつつ、一方では、チャネルにおけるパワー分布を認識し、測定する事である。
スチュワードの究極的な目標は、顧客ニーズに対応するため、チャネルシステムを同じ方向に向かせ、影響を与えること、そして、システム全体の目標の達成に貢献したチャネル・パートナーに、適切な財務リターンをもたらす事にある。
■チャネル・バリューチェーンを構築・改定する
チャネルの進化を作り出す「4つの力」(ディマンドチェーン、チャネル能力とコスト、チャネルパワー、競合の活動)は、そのままでは、供給業者、顧客、中間業者の意向を全て同時に満たすように協調して作用する事はない。スチュワードは、チャネル・バリューチェーン(CVC)を構築し改定する事を通じて、これらの力に影響を与える事ができる。
CVCの構築と改定にあたっては、次の3原則を用いる事が大切である。
①価値の創造は、顧客から始まる
②主要競合をベンチマークし、常にチャネル戦略を見直す
③チャネル能力とディマンドチェーンは、相互に影響するため、チャネル設計は常に変えていく
これら3原則を実行に移すには、6つのステップからなるフレームワークを利用する。
①エンドユーザーの視点から、全てが始まる
②ディマンドチェーンのニーズに応じて、優先順位とセグメントを決める
③それらのニーズを満たすための、チャネル能力を測定する
④ほぼ同じ顧客セグメントを対象としている、主な競合をベンチマークする
⑤顧客の潜在ニーズを満たすための新しい能力を構築し、評価する
⑥チャネルの選択肢を評価し、①〜⑤のステップから得られた洞察に、最も適合するものを1つ選ぶ
チャネルとは、価値を創造するためのものであって、顧客に到達するための単なる「パイプ」ではない。6つのステップを使う事によって、チャネルの転換を図る。
■チャネル・バリューチェーンを方向づけする
流通チャネルにおけるパワーには、2つの基本形態がある。
①供給業者が製品や技術により、影響力を持とうとするパワー
②流通業者が顧客へのアクセスを持つ事により、影響力を持とうとするパワー
メーカーは常に流通業者から顧客情報を得ようとする。一方、流通業者は顧客コントロールを失う事を恐れて、情報提供をしない。メーカーが直接販売に乗り出したり、他の流通業者につなぐのではないかと危惧するからである。
チャネル・スチュワードシップの主な目的は、チャネル参加者を方向づけする事によって、顧客が価値を受け取り、チャネル・パートナー達のパワー行使を調和させ、適正な利益を上げられるようにする事である。
ハーバード・ビジネス・スクール教授 インドでエンジニアリングの学位取得後、ノースウェスタン大学大学院ケロッグスクールでマネジメントの博士号を取得。渡米以前は多国籍企業のセールスやマーケティングの担当者として実務経験を積んだ。 ハーバード・ビジネス・スクールでは、MBAコースのマーケティング全般で教鞭をとり、経営幹部向けのB2B戦略、企業の社会的責任に関するプログラムなどでも教えている。
帯 ノースウェスタン大学大学院ケロッグスクール教授 フィリップ・コトラー |
帯2 ノースウェスタン大学大学院ケロッグスクール教授 ルイス・W・スターン |
帯3 マーサー・マネジメント・コンサルティング取締役 エイドリアン・スライウォツキー |
章名 | 開始 | 目安 | 重要度 |
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第1章 チャネル・スチュワードシップとは何か | p.1 | 26分 | |
第2章 業界チャネルをマッピングする | p.37 | 32分 | |
第3章 チャネルバリューチェーン(CVC)を構築・改定する(その1)―主な原則 | p.81 | 22分 | |
第4章 CVCを構築・改定する(その2)―開始にあたってのフレームワーク | p.111 | 26分 | |
第5章 CVCを方向づけし、影響を与える(その1)―パワーの概念 | p.147 | 28分 | |
第6章 CVCを方向づけし、影響を与える(その2)―パフォーマンスへのフォーカス | p.185 | 22分 | |
第7章 スチュワードシップの実践(その1)―供給業者の事例 | p.215 | 26分 | |
第8章 スチュワードシップの実践(その2)―中間業者の視点 | p.251 | 29分 | |
第9章 複数チャネルにおけるスチュワードシップ | p.291 | 25分 | |
第10章 チャネルとしてのインターネットその可能性と課題 | p.325 | 31分 | |
第11章 複数チャネルソリューションに、インターネットを統合する | p.367 | 23分 | |
第12章 チャネル・スチュワードシップの戦略と導入 | p.399 | 23分 |