世界的に著名なグラフィック・デザイナーである著者が、米国の名門芸術大学の学長に就任したことで学んだリーダーシップについて語っています。アーティストの視点で、チームの力を最大限発揮するために配慮すべきポイントは何かを説く。
■自ら手を汚す
アートとデザインを背景とする者は、リーダーシップについて人と異なる見方をする。アーティストやデザイナーは、作品を作る過程で自らの手を汚す事を厭わない。その自由な精神は、リーダーシップに対しても応用される。クリエイティブなリーダーとは、文字通り絵具で手が汚れているアーティストのように、自らの手を汚しながら組織を率いるような人だ。
デザイナーは作る事と繰り返す事を通じて問題を解く事を学んでいる。彼らは問題に直面すると、すぐにペンを手にして図を描き始めるか、紙で模型を作るか、コンピュータの画面上に何らかのプロトタイプを作る。彼らは自らの感性を原動力として、新しく意味ある何か生み出す努力をしている。
■直感を大切にする
データは、ある事に注意を引きつける状況を作り出す事があっても、それだけで人を行動へと駆り立てる感情を呼び起こす事はめったにない。地球温暖化に関する統計データは昔から説得力があったが、アル・ゴアが映画『不都合な真実』でデータに物語的な背景を与えるまで、地球温暖化問題がメインストリームに押し出される事はなかった。
「物語は統計データに勝る」。複雑な数値を伝えるより、なぜその数値を伝えたいのかという理由を訴える方がずっと重要だという事だ。良い物語を語るのは数量的なスキルではない。それは、聴衆が何を聞きたがっているのか、説得力のある形でどう伝えればいいのかを直感的に捉えるスキルだ。
アーティストは、分析の訓練を受けた人たちよりも、ずっと多く直感を頼りにしている。分析に長けた者はまず複雑な問題を取り上げ、それから各構成要素に分解していく傾向がある。少しずつ着実に問題を解くためだ。ところがアーティストは、あらゆる制約を無視しているかのように、一足飛びで解答を得ようとする。時には解答を見失う事もあるが、彼らはターゲットを見失う事を恐れない。
アーティストの直感は、単なる行き当たりばったりのものではない。それは時期に注意を払う事や、本当に信じているものに対して誠実であるというような、シンプルなものなのだ。
批評を求め、積極的に全体像を描いていけば、周囲の状況と自分の感性がうまく連係作用する。直感は、予期せぬ事をうまくさばく手助けをしてくれる。恐れる事なく可能性を感じられるからだ。大きくジャンプして、ちゃんと着地できると信じること。恐れるのは、何かを試す時に自分の手を汚す事を嫌がる人間に成り果てる事だ。
著者 ジョン マエダ
1966年生まれ。ロードアイランド・スクール・オブ・デザイン学長 日系アメリカ人のグラフィックデザイナー。MITメディア・ラボでシンプリシティ・コンソーシアムを立ち上げ、E・ラッジ&ナンシー・アレン メディア・アーツ&サイエンス学科教授を務める。 メディア・ラボ副所長を経て、2008年6月より、米国有数の芸術大学であるRISD(ロード・アイランド・スクール・オブ・デザイン)学長に就任。 スミソニアン・ナショナル・デザイン賞(アメリカ)、レイモンド・ローウィ財団賞(ドイツ)、毎日デザイン賞(日本)など、受賞歴多数。
著者 ベッキー バーモントRISDメディア部門バイスプレジデント MITメディアラボの時代から、ジョン・マエダと共にデザイン、アカデミア、ビジネスの各分野の橋渡しをする仕事に携わる。
日本経済新聞 福井県立大学地域経済研究所所長 中沢 孝夫 |
ビジネスブックマラソン 土井 英司 |
章名 | 開始 | 目安 | 重要度 |
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1 ここから始まる | p.1 | 8分 | |
2 クリエイティブとして | p.13 | 15分 | |
3 技術者として | p.37 | 13分 | |
4 教授として | p.57 | 12分 | |
5 人間として | p.75 | 14分 | |
6 ありがとう | p.97 | 5分 |