レシピサイト「クックパッド」の経営がわかる1冊。ユーザーの立場に立ち、徹底した使いやすさにこだわるクックパッド。その経営の根底には、どのような考え方があるのか。
■「まかない」も作れるオフィス環境
クックパッド社の本社は、高級住宅地として知られる港区白金台のプラチナ通りにある。レセプションにはこれといって受付らしい設備もなく、「まかない」も作れる広々としたキッチンが広がっている。業務用冷蔵庫には、築地や全国の農家から買い付ける食材であふれる。社員はこの食材で自由に「まかない」が作れるシステムだ。普段から社員同士でまかないを作って食べる事が多く、いつもは接点の少ないスタッフ同士も交流でき、社の風通しのよさに貢献している。
■会社に依存しない社員たち
クックパッドの意思決定は早い。大抵の案件は2〜3人のチームに権限が委譲されている。社員全員がノートパソコンを携えて社内を行き来し、部屋の大きなホワイトボードで意見を闘わせ、「たらい回し稟議」を経ずして決定が下る。だらだらと職場に残るのを潔しとせず、社員は仕事という一点で会社とつながっている。クックパッド社は従来型の日本企業の真逆を行く経営スタイルである。
■社員が本気で支持する経営理念
クックパッド社の経営理念は「毎日の料理を楽しみにすることで、心からの笑顔を増やす」。創業者の佐野陽光は学生時代、国連会議に参加する機会があり、そこで発展途上国から来ていたアブドゥという男と出会った。アブドゥの暮らす国は貧しく不安定な国情であったが、その笑顔は素敵で、印象は強烈だった。佐野は「人間が欲しいものはたかがしれているのではないか」と考えるようになる。そしてアブドゥのスカッとした笑顔を思い描きつつ、「心からの笑顔をどれだけ増やせるのか、それを自分の価値観、追いかけるべきものにしよう」と決める。
笑顔はきっと、家の料理にこそある。今なおクックパッド社の門を叩く就職希望者は経営理念に魅力を感じて来たものが多い。代表執行役の穐田誉輝も採用にあたっては、「専門的能力もさることながら、理念を共有できるかを見る」という。
■ユーザーと広告の「明るいコラボ」
元執行役の小竹貴子は、佐野と草創期の苦労をわかち合い「社内キッチンまかない制度」や「レシピつき名刺」等々のアイデアを実現させた立役者だ。そんな小竹の入社当初の月給は5万円。佐野は「ユーザーが料理を楽しむ邪魔になる」として広告には否定的だった。
「ならばユーザーも楽しめる広告を」と考えて始めたのが「レシピコンテスト」。クライアントに調理器具や調味料を提供してもらい、その「お題」でユーザーがレシピを投稿するシステムだ。初期のヒットコンテストは「エバラ焼肉のたれを使った毎日のおかずレシピ大募集」。投稿数150品以上と当時としては大きな成功を収めた。今やコンテスト応募レシピ数は平均300品を数える。
クライアントは主婦たちの生の声と接しながら「こういう使い方もあったか!」と学び、ユーザーはレシピを考え、競い合い、評価される喜びをおぼえる。「主婦は意外と評価される機会が少ないのです」と小竹は言う。その仲介役としてクックパッド社はしっかり利益を得る。レシピコンテストは「ウィンウィンウィン」の関係といえる。
■量はいつしか「質」に転化する
インターネットが出始めた頃は、匿名の投稿が、利用価値を持つとは思えなかった。しかし、量が「質」に転化したのである。たとえば「食べログ」にしても投稿数が増えるに従い、納得のいくランキングになりつつある。
クックパッドの強みも130万品という圧倒的なレシピ数にあり、自分と味の好みやライフスタイルが似ている投稿者と出会えば、お目当てのレシピに辿り着ける確率も上がる。結果として「等身大」「自分仕様」の使い方ができるのも、量が「質」に転化した恩恵といえる。
著者 横川 潤
1962年生まれ。文教大学国際学部准教授 外食産業マーケティング研究を行う食評論家。慶応大学大学院商学研究科修士課程で村田昭治教授よりマーケティングの薫陶を受け、ニューヨーク大学大学院でMBA取得。アメリカのレストランガイド「ザガットサーベイ」を翻訳し、日本に初めて紹介。 「ほこVSたて」「TVチャンピオン」等の審査員、ニュースやバラエティ番組のコメンテーターも務めている。
週刊 ダイヤモンド 2013年 3/16号 [雑誌] 三省堂書店営業本部課長 鈴木 昌之 |
PRESIDENT (プレジデント) 2013年 4/1号 [雑誌] |
週刊 ダイヤモンド 2013年 3/9号 [雑誌] |
章名 | 開始 | 目安 | 重要度 |
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プロローグ 仕事を通じて「家族」が幸せになる | p.6 | 2分 | |
1 「まかない」も作れるオフィス環境 | p.14 | 1分 | |
2 生き方まで「会社まかせ」にしない | p.18 | 1分 | |
3 社員が「本気」で支持する経営理念 | p.22 | 1分 | |
4 プログラムは「客目線」で組む | p.26 | 1分 | |
5 「時刻表・地図」の次に売れなくなるのは? | p.29 | 1分 | |
6 「問題解決」こそやりがい | p.33 | 1分 | |
7 レシピ製作は「作家的」な仕事である | p.37 | 1分 | |
8 「ゼロベース・シンキング」のすすめ | p.40 | 2分 | |
9 「ガパオ」がおふくろの味になる | p.45 | 1分 | |
10 「3秒」でわからないサービスは失格 | p.49 | 1分 | |
11 「シンプル」に勝るデザインはない | p.53 | 1分 | |
12 名刺のレシピで「自分」が出せる | p.56 | 1分 | |
13 人事はくじ引きでもかまわない | p.60 | 2分 | |
14 ユーザーと広告の「明るいコラボ」 | p.67 | 1分 | |
15 「利益率50%」を生む技術とサービス | p.71 | 2分 | |
16 バックヤードの主役は「ネット男子」 | p.77 | 1分 | |
17 ネットの目的は「リアルな充実」 | p.81 | 1分 | |
18 クックパッドは「民主主義」である | p.85 | 1分 | |
19 量はいつしか「質」に転化する | p.88 | 2分 | |
エピローグ 料理ほど「笑顔」になれる営みはない | p.93 | 1分 | |
社員の力を引き出す104枚の名刺 | p.97 | 10分 |
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タイトルは20文字限定
2013-04-06
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