安倍政権の指南役であるイェール大学名誉教授の浜田宏一氏によるデフレ脱却の処方箋。教え子である日銀の白川総裁を徹底的に糾弾し、デフレの責任は日銀にあると説く。アベノミクスの基本的な考え方がよくわかります。
■デフレと円高の責任は日銀にある
「原則として日銀は民間の資金需要に対して資金を供給しているので、物価の決定についても限定的であり、とりうる政策手段も限定的であり、政府との協調関係も限定的であるべきである。例えば長期国債の購入によって貨幣供給量を増やすという事は、それが財政政策の領分に入るので禁じ手であるとされる」
この「日銀流理論」と、世界に通用する一般的な金融論、マクロ経済政策との間には、大きな溝がある。その結果としてもたらされたのは、国民生活の困窮だ。
日本経済は世界各国の中でほとんど最悪といっていいマクロ経済のパフォーマンスを続けてきた。主な原因は、日本銀行の金融政策が、過去15年あまり、デフレや超円高をもたらすような緊縮政策を続けてきたからだ。
デフレは、円という通貨の財に対する相対価格、円高は外国通貨に対する相対価格。つまり、貨幣的な問題なのである。したがって、それは金融政策で解消できるものである。
■アメリカは日本経済の復活を知っている
20年もの間デフレに苦しむ日本の不況は、ほぼすべてが日銀の金融政策に由来するものである。白川総裁は経済学の普遍の法則を無視している。世界孤高の「日銀流理論」を振りかざし、円高を招き、マネーの動きを阻害し、株安をつくり、失業や倒産を生み出している。
「金融政策だけではデフレも円高も阻めない」これが、経済学200年の歴史に背を向ける「日銀流理論」だ。だが、2012年2月14日、日銀が1%のインフレ「ゴール」を設定すると、たちまち株価は1000円高、円は4円安となった。この事は、金融政策の効果が「期待」に大きく依存している事を示している。正しい理論に基づく金融政策は有効なのである。日銀がそれをしてこなかっただけだ。
外国人学者のほとんどすべては、潜在成長率のはるか下で運営されている日本経済を「ナンセンスだ」と考えている。アメリカは、いや世界は、日本経済が普遍の法則に則って運営されさえすれば直ちに復活する事を知っている。
■ハイパー・インフレは心配しなくていい
日銀の大きな問題の1つは、インフレに対する姿勢とデフレに対する姿勢が全く違う事だ。インフレに対しては「これは大変な事だ」と大騒ぎするわりに、デフレに対しては何事でもないかのようになんら対応せず、黙認する。
日銀は戦前、軍国主義路線に従って国債を際限なく引き受けた。そのため、終戦後の日本は深刻なハイパー・インフレに見舞われている。その時の屈辱や敗北感が、日銀にとって長年のトラウマになっているのであろう。
「日銀が資産を買い進めていくと、やがてハイパー・インフレになるのではないか」という批判がある。しかし、インフレと聞いて即、ハイパー・インフレを想像するのは短絡的に過ぎる。そのように日銀が宣伝しているだけだ。
そもそもデフレの状態とは、物価が下がっている事である。一方、ハイパー・インフレは、物価上昇率に歯止めがなくなること。それは、緩やかなインフレ、駆け足のインフレ等を経て、おもむろにやって来るのだという事がわかっている。マイナスの物価上昇率が無限大のプラスになるには、必ずゼロを通過するのだ。だから、そうなってから考えればいい。そして、日本銀行は素晴らしいインフレ退治の名手なのだ。
著者 浜田 宏一
1936年生まれ。イェール大学名誉教授 東京大学名誉教授 専門は、国際金融論、ゲーム理論。国際金融に対するゲーム理論の応用で世界的な業績をあげる。日本銀行の金融政策を批判し、リフレーション政策の支持者の一人とされる。 1969年、東京大学経済学部助教授。1981年、東京大学経済学部教授。1986年、イェール大学経済学部教授。2001年からは、内閣府経済社会総合研究所長を務める。
週刊 東洋経済 2013年 8/17号 [雑誌] |
帯 嘉悦大学教授 高橋 洋一 |
週刊 東洋経済 2013年 1/26号 [雑誌] 上智大学経済学部准教授 中里 透 |
日経ビジネス MARUZEN&ジュンク堂書店渋谷店 社会科学書担当 大塩 朋未 |
日経ビジネス Associe (アソシエ) 2013年 03月号 [雑誌] |
THE 21 (ざ・にじゅういち) 2013年 05月号 [雑誌] 慶応義塾大学大学院経営管理研究学科准教授 小幡 績 |
エコノミスト 2013年 4/23号 [雑誌] 慶応義塾大学教授 小熊 英二 |
章名 | 開始 | 目安 | 重要度 |
---|---|---|---|
まえがき | p.1 | 3分 | |
序 章 教え子、日銀総裁への公開書簡 | p.17 | 16分 | |
第1章 経済学200年の歴史を無視する国 | p.39 | 17分 | |
第2章 日銀と財務省のための経済政策 | p.63 | 24分 | |
第3章 天才経済学者たちが語る日本経済 | p.97 | 24分 | |
第4章 それでも経済学は日本を救う | p.131 | 16分 | |
第5章 2012年2月14日の衝撃 | p.153 | 24分 | |
第6章 増税前に絶対必要な政策 | p.187 | 21分 | |
第7章 「官報複合体」の罠 | p.217 | 21分 | |
終 章 日本はいますぐに復活する | p.247 | 10分 | |
あとがき | p.261 | 8分 |
円高の正体 (光文社新書) [Amazonへ] |
現代の金融政策―理論と実際 [Amazonへ] |
雇用、利子および貨幣の一般理論〈上〉 (岩波文庫) [Amazonへ] |
アメリカン・ライフ (1961年) (岩波新書) [Amazonへ] |
日本は破産しない! (宝島SUGOI文庫) [Amazonへ] |
死活と攻合い―原理・原則を説き明かし、読みぬく力を付ける (新・木谷道場入門) [Amazonへ] |
官報複合体 権力と一体化する新聞の大罪 [Amazonへ] |
日本は財政危機ではない! [Amazonへ] |
日銀を知れば経済がわかる (平凡社新書 464) [Amazonへ] |
知の技法: 東京大学教養学部「基礎演習」テキスト [Amazonへ] |