投資家の要求が日本企業に金融引き締めをもたらしている
日米のインフレ率に安定的に2%の差がある事に定説はない。私の仮説は「2%のインフレ率格差は、グローバル化による『金利』(投資家から求められる期待収益率)の収斂を受け、日本が実質的な金融引き締めを余儀なくされた結果として生じた」である。
これまで金利は、その国の成長力に応じてばらばらであったが、今はどの国も8%という水準を要求されるようになった。少子高齢化を背景に、潜在成長率が相対的に劣る日本は、それに相応しい低い金利が適用されず「実質的な金融引き締め」に陥り、デフレになっている。
日本の金利はずっと0%ではないかと言われるが、金利にもいろいろある。株主から見ると、企業が稼ぐ利益も「金利」である。株式市場ではこの「金利」を「ROE(株主資本利益率)」と呼ぶ。経済がグローバル化する中で、世界中の投資家は、その国の状況に関係なく、同じROEを要求するようになったのである。これは「金利」が世界的に収斂している事を意味する。
日本の企業経営者は、海外の投資家に会う度に「ROEの目標は何%なのか?」と責められている。ROEを改善するためには、売上高純利益率を上げねばならず、株主以外のステークホルダーである従業員や下請け企業の取り分(コスト)が縮小する事になる。
グローバル化した時代、「金利」を決めるのは日銀だけではない。期待ROEの上昇という「事実上の金融引き締め」を受け、企業が必要以上に慎重になっている。
ROEの呪縛から抜け出せ
過剰供給が日本経済の問題なら、ROEを経営指標にして、リストラを促すのは理に適っている。しかし、需要不足が深刻な問題なら、ROEはむしろ逆効果である。株主以外のステークホルダー、すなわち従業員や下請け企業の取り分を減らして、結果的に経済が縮小する危険性がある。
日本の株式市場の時価総額は右肩下がりに減少している。この間の「ROEを引き上げよ」という株主の声は、結果を見る限り効果的ではなかった。おそらく「全体(パイの拡大)」を反映しない「部分最適(株主の取り分を増やす)」にとどまっていたからではないか。デフレの時代に相応しい経営指標は「ROE」ではなく「売上高」である。
失われた20年の間、この「金利」による呪縛から相対的に自由なオーナー企業の成績は好調であった。重要なのは、「株主全体の目線(全体最適)」を常に意識する事だ。外国人投資家の要求は、神の声ではない。