デフレは政府や日銀の政策だけでは脱却できない。真の問題は「民間」にあるとし、そのデフレの正体を解き明かしている。日本を代表するストラテジストが、デフレ問題の本質を紹介している。
■日銀のやる気だけでデフレは脱却できない
もう、何回、成長戦略が作られてきたのだろうか。量的金融緩和も大量の円売り介入も試したはずだ。それでも、足りないとばかりに、同じ要求が繰り返されている。政府や日銀が態度を改めるだけで良いなら、とっくに日本経済はデフレを抜け出し、景気も良くなっているはずだ。
日銀の思い切った金融緩和で「予想インフレ率」が上昇すると、円安になるはずだ。円安になると、株価も上昇し、景気も回復するかもしれないと主張する者がいる。しかし、日本の将来のインフレ率は、「日銀のやる気」ではなく「アメリカの景気」の影響を強く受けている。「失われた20年」の間、日本とアメリカのインフレ率は約2%の差を維持しながら平行移動しているのだ。つまり、日銀の影響力は限定的なのである。
「アメリカのインフレ率ー日本のインフレ率=2%」という方程式を前提にすると、日本のデフレ脱却は、次の2つでしか実現しない。
①アメリカがインフレ抑制に失敗し、インフレ率が2%以上になる
②日米間のインフレ率格差2%の謎を解明し、それを解消する
経済が上手く回らないのは、企業に問題がある。企業は銀行などの金融機関を経由して、間接的に資金を借り入れる事もあるし、債券や株を発行して、直接調達する事もある。この企業金融への理解不足が日本経済の長期低迷をもたらしている。
大企業の資金調達の内訳は銀行借入や社債などの「負債」が406兆円、「株主資本」が305兆円である。負債のコストは、ゼロ金利政策のおかげもあり、ずいぶん低下したが、資金調達の半分近くを占める「株主資本コスト」は、バブル崩壊後に逆に上昇してしまった。なぜなら、外国人投資家の日本株の保有比率が上昇し、当たり前のように世界標準の見返りを要求するからだ。
株主資本に対する見返りである利益も「金利」である。世界標準で要求される利益は高く、高金利だ。こうした高金利は、金融緩和の効果を相殺して余りある。「実質的な金融引き締め」が起きている事になる。それがデフレの原因だ。
利益を「コスト」だと理解せず、「株主資本コスト」の上昇に歯止めをかける事ができなかった。逆に利益を増やせばすべてが上手くいくと信じてしまった。信じてしまうと、なかなか間違いに気が付かない。そして、そのまま「日銀が無力だ」「円高が諸悪の根源だ」とデフレの犯人捜しを延々と続けることになった。
著者 北野 一
JPモルガン証券株式会社 株式調査部マネジングディレクター チーフストラテジスト 大学卒業後、三菱銀行入行。資金証券部、ニューヨーク支店を経て、1991年より為替資金部にて為替アナリストに。1997年より東京三菱証券(現三菱UFJモルガン・スタンレー証券)にて株式ストラテジストを担当。 2006年に株式調査部チーフストラテジストとしてJPモルガン証券株式会社に入社。 日経アナリストランキングのストラテジスト部門ではランキングトップの常連である。
日本経済新聞 |
週刊 東洋経済 2012年 12/8号 [雑誌] |
WEDGE |
エコノミスト 2013年 1/8号 [雑誌] |
PRESIDENT (プレジデント) 2013年 2/4号 [雑誌] |
章名 | 開始 | 目安 | 重要度 |
---|---|---|---|
はじめに | p.1 | 6分 | |
第1章 「日銀のやる気」で日本は救えるか? | p.15 | 28分 | |
第2章 本当の「金利」とは何か | p.55 | 22分 | |
第3章 誰も顧みない「株主資本コスト」 | p.87 | 28分 | |
第4章 「株主」とは何者なのか | p.127 | 17分 | |
第5章 デフレと円高、そしてアメリカ | p.151 | 23分 | |
第6章 苦境からの脱出―「思想の呪縛」から抜け出せ! | p.185 | 11分 | |
おわりに | p.201 | 4分 |
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