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万人に向けて作られたものは売れなくなった

インターネットによって、消費者が何でも選ぶ事ができるようになり、万人のための商品は売れなくなった。人は人と違うものを求める。顧客の欲しいものが細分化してしまった今、企業はどうやって顧客を獲得すれば良いのかについて説明している1冊。


■真ん中の市場が失われた
万人向けに作られた「真ん中」の市場は社会の変化に伴い何十年も前から徐々に失われつつあったが、近年になってそのペースは加速し、現代における最も重大な社会現象になった。真ん中の喪失は、人々のものを買う時の考え方から、観るテレビ番組や愛読する新聞、政治家のメッセージの発信の仕方、パートナーの探し方にまで、その影響を及ぼしている。その結果、誰もが他者とは違う存在になりたがるという奇妙な世界になり、どんなものにも「ニッチ=生息できる場所」ができた。

人々の消費はこれまで、いくつかの大企業という「怪物」の手で支配されていた。そんな怪物も今では、多種多様な種が共存する環境の出現に戸惑っている。種によって違うものを欲しがるようになったのだ。

彼らは主流文化を支配していた。その全盛期には、人々を動かす力があったし、「真ん中」を切り開いた。だが、それはここ数十年の間に崩壊した。インターネットの登場によって、消費者は自分が求めるものを狙い撃ちで捕食できるようになり、選択肢も豊富になったからだ。

超短要約

■カルトを育てる
2007年、ポール・プレスラーがギャップのCEOを辞任したその年は、トム・ヒックスというオートバイディーラーが本領を発揮できるようになった年でもあった。彼の店は、イタリアのオートバイブランド、ドゥカティのみを扱っていて、他のメーカーのオートバイはもちろん、ノーブランドのパーツやアクセサリーも一切置いてない。

その後、彼はトライアンフ、ヴィクトリー、2つのブランドの販売を始め、それぞれのブランドごとに独立したショールームを設けた。2000年当初は53台のオートバイを売った。2010年には年間で500台以上を売る300万ドル企業になった。

彼の店は電話帳にも掲載されておらず、宣伝はもっぱらダイレクトメールとウェブサイトで行う。週刊メールマガジンを発行し、地元でいくつかのオートバイレースも主催し、その他のレースにも会社として積極的に参加している。運営するクラブ会員には、アクセサリー商品を割引価格にて提供する。少数でも思い入れの強い熱心なファンの欲求を満たせば、自分の店のクチコミが広がるとヒックスは考える。

彼の支持する高性能でごく一部の人に人気のあるオートバイは、この10年で堅実に市場シェアを伸ばしている。その理由をヒックスに尋ねると、驚く事ではないと言う。今は、誰もが他の人と違う存在になりたがっているので、ハーレーダビッドソンのような大手ブランドですら、購入者の手によってカスタマイズされたりしている。とはいえ、購入者は何か特別感を味わえるものの一員になりたいとも思っている。それがヒックスの店なのだ。

■共感してくれる人が顧客となる
なぜトム・ヒックスは成功し、ポール・プレスラーは失敗したのか。ヒックスはプレスラー同様、主流とは違う存在になりたいと口にする人でも、何かのグループに属していたいと思っているという事を理解していた。但し、ヒックスは潜在顧客を「箱」に入れて区分するつもりはなかった。個人的に好きなオートバイのショールームをブランドごとにオープンし、訪れる人にバイクの素晴らしさを絶賛して共感してくれる人を見つけようとしただけだった。

小売りの生態系が新しくなった今、プレスラーよりもヒックスの方が成功に近い場所にいる。ヒックスは自分のショールームにバイクの素晴らしさを語ってくれる伝道師となる信者が集まれるようにした。要するに、彼はカルト集団のやり方にならったのだ。

ヒックスのような人々は、顧客の属性など気にもとめていない。自分が扱う商品の優れた点を見出す事に注力し、それから、その良さをわかってくれる人を集めようとする。思い切って主流から外れたところに自分の居場所を構えれば、怪物たちが取り決めた入れ物に合わせなくてもよくなる。良質なものが成長するのに必要な時間と場所を使って、育んでいく事ができる。

著者 ジェームズ ハーキン

フロックウォッチング社代表 消費者や社会の変化を追跡し、未来を予測するのに適したツールやアイデアを提供している。『フィナンシャル・タイムズ』や『ガーディアン』に連載も持つ。

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章の構成 / 読書指針

章名 開始 目安 重要度
はじめに p.3 8分
第1章 市場から「大衆」が消えた―怪物企業の支配は終わった p.15 41分
第2章 次のターゲットはどこか?―市場を細分化する怪物たち p.61 25分
第3章 主流の下は宝の山?―モグラになる怪物たち p.89 23分
第4章 与えても見向きもされない―タカになった消費者 p.115 23分
第5章 タカはどこに舞い降りるのか?―生態系が変わればニッチも変わる p.141 32分
第6章 熱狂的なファンの群れ―類は友を呼ぶ p.177 30分
第7章 隣の群れは何の群れ?―ニッチに潜む問題点 p.211 18分
第8章 カルトを育てる p.231 18分

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