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2013/02/08更新

経済学に何ができるか - 文明社会の制度的枠組み (中公新書)

208分

10P

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経済学で物事の本質を探るエッセイ

税と国債、金融政策、格差と貧困、幸福といったテーマについて、経済学の基本的な論理を解説しながら個別に論じている。

世の中の問題はすべて純粋な経済問題だけにとどまらず、人それぞれの価値観や政治などの要因を受けるため、経済学だけで世の中の問題を解決する事は不可能だと結論づけている。

一方で、経済学による物事の仕組みを知る事は大切であり、物事の見方を提示し、選択の判断基準として経済学は大切だと説く。


■民主化が進むと国債に頼る
合理的な支配には経済基盤が不可欠である。国家は絶えず収支のやりくりに腐心せざるをえない。国民が公共サービスを受ける権利のみを主張し、その財源となる税金を納める義務を怠れば国家は破綻する。ギリシャは現在その危機に瀕しているのだ。

国債の発行は、課税、通貨の印刷と共に、政府支出を調達するための主要な手段の一つである。特に民主化が進み国民の要求が政治に反映されるにつれ、為政者は財源の不足分を、課税ではなく国債に頼るようになる。国民からすれば課税は一番避けて欲しい財源調達方法なのである。

「未償還国債の累積」と「国の衰退」との間の因果関係について現在のところ唯一正しい理論が存在する訳ではない。国債も短期・長期、無利子と多種多様であり、それぞれ金融上の機能と影響力は異なるから一般論は難しい。

超短要約

■経済学に何ができるのか
経済学は社会の経済問題に一刀両断に明快な答えが与えられるものではない。個々人の私的問題、社会問題には必ず経済的な側面がある。しかし、純粋な経済問題はこの世に存在しない。

この世の多くの問題が「純粋に経済的」でないとすれば、経済的な側面に限定してその問題にメスを入れる経済学だけでは問題は解決しないはずだ。だからこそ、経済学者による専門的判断だけでなく、健全な価値観と判断能力を持ったアマチュアの生活者としての知恵も必要とされる。賢明なアマチュアが提示した回答や疑問に対して、経済学からの回答を経済学者は準備せねばならない。

しかし経済学の役割はここまでである。何を重視したモデルに基づくかによって経済学者の回答は同一でない場合が多い。したがって当然そこに「価値」の対立と相克が生まれる事は避けられない。あとはデモクラティックな過程の中で、議論を重ねながら何らかの合意に達する道を探るというのが、リベラル・デモクラシーの文明社会に住む人間の義務と責任なのである。

こうした経済学の役割とその限界を明確にした事例に次の2つがある。

①TPP参加問題
輸入国が課す関税をどれぐらいの高さに設定するか、完全に撤廃してしまうか等によって、貿易の量と流れが激変する事がある。関税は国と産業にとっては死活問題なのだ。TPPは、日本農業の体質見直しの刺激剤となりうるが、場合によっては打撃ともなり得る。TPPは単なる経済問題ではない。TPP参加には大きな政治問題が含まれている事に留意する必要があろう。

②ユーロ危機
ユーロ危機は、経済学の論理と対立するような政治運動が生み出した危機とも言える。ユーロ導入は、EUのメンバー国の経済政策の自由度を奪う事になった。国際金融の理論では、複数の国家間で単一通貨がうまく機能するためには次の条件が満たされなければならないとしている。

・「中央政府」から不況メンバー国への財政移転が可能なこと
・労働力と企業がメンバー国間で自由に移動できること
・不況地域の物価・賃金が下落し、企業が流入しうる物価・賃金の伸縮性があること
・以上3条件の調整が不要な程に、メンバー国の経済状況がシンクロナイズすること

しかしEU参加国はこれらの条件を4つとも満たしていないと指摘されていた。しかし、共通通貨の導入は「欧州の統一」という政治的理想を実現しようと推進された。つまり、政治的理想と経済の論理に矛盾があった。

経済学が力を発揮できるのは、その論理を用いて説得が可能な価値選択以前の段階までであり、それ以降は政治的な選択に任すより他ないのである。経済学の論理だけで強い主張を行えない理由はそこにある。そこが理論と政策を分ける重要な境界線なのである。

著者 猪木 武徳

1945年生まれ。青山学院大学大学院特任教授 大阪大学経済学部教授、同学部長、国際日本文化研究センター教授。同所長を経て現職。専門は、労働経済学・経済思想・経済史。

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章の構成 / 読書指針

章名 開始 目安 重要度
序 章 制度と政策をめぐる二つの視点 p.3 6分
第1章 税と国債―ギリシャ危機を通して見る p.15 12分
第2章 中央銀行の責任―なぜ「独立性」が重要なのか p.33 12分
第3章 インフレーションの不安—貨幣は正確には操作できない p.51 11分
第4章 不確実性と投資―「賭ける」ことの意味 p.71 13分
第5章 貧困と失業の罠―その発見から現在まで p.91 14分
第6章 なぜ所得格差が問題なのか―人間の満足度の構造 p.113 13分
第7章 知識は公共財か―学問の自由と知的独占 p.133 13分
第8章 消費の外部性―消費者の持つべき倫理を考える p.153 10分
第9章 中間組織の役割―個人でもなく国家でもなく p.171 12分
第10章 分配の正義と交換の正義―体制をいかにデザインするか p.189 10分
第11章 経済的厚生と幸福―GDPを補完するもの p.205 10分
終 章 経済学に何ができるか p.221 12分

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