ロボット研究の世界的権威である著者が、独創的なアイデアを生むための思考法を解説。著者自身の経験を交えながら、どのように知恵を絞るのかが紹介されている。
前半は、アイデアを生み出す思考法、後半は、教育問題や海外で活躍するために必要なコミュニケーション、プレゼンテーションなどの話がまとめられている。
■創造は省略から始まる
研究者は研究を省略から始める。難しく、複雑な現実をそのままに扱ったり考え始めるとうまくできない。世の中に起こっている事を簡単、省略、抽象化して見る、これが科学や工学の基本である。
単純化の量が足りないと難しすぎて理論にならない。一般には、単純化、抽象化が進めば進むほど、美しく、鮮やかな理論ができる。しかし、易しい方向にどんどん向かっていくと、その先に「自明」の崖がある。そこから先にいくと、そんなものは当たり前、理論ではないという状態に達する。自明の崖の手前で止まっているものが、最も素晴らしい理論である。
思考の過程を省略し、最も適切に単純化するためには、見通しを持つ事である。見通しを使うことで、ものが見えてくる。
■自分が問題そのものになる
構想力の重要さは研究者にも同じである。世の中の問題は概ね難しいので、その問題を最も一般的な形で解くというのはまず不可能である。実現したい目標や解明したい現象を取り出す。その取り出し方が、①広すぎず、狭すぎず、②使うべき仮定や予備条件が少なすぎず、多すぎずにである。その基準は結局、結果が役に立つかである。このちょうどいいところに問題を限るというやり方が、研究の構想力であり、知的能力なのである。
研究とは答えがわからないものだ。このわからないという不安に打ち勝ち、研究の結果を出すためには、知的体力がないとダメである。同じ事を考え続けたり、一つの事をいろいろな方面から考えても飽きのこない力の事である。
知的体力を持続させるには「自分が問題そのものになれ」と言い聞かせている。問題を解きたいと思う時には、次のように頭を使うのだ。
①イメージを描く:問題の生まれる状況をいろいろと思い巡らす
②足場を組み始める:例題を作り、仮の解法をひとまず考える
③足場をだんだんと高くする:解法の足場を組んでいき、実問題を解いてみる
こうした事を積み重ねていくと、なぜか、まるで自分が問題自身になったような感覚が生み出されてくる。
■アイデアは「人に話して」発展する
どんなアイデアでも、最初は単なる思いつきに過ぎないという事が多い。アイデアを練る方法は、考えついたアイデアを人に語りかけ、そのやりとりでまともなアイデアかどうかをチェックし、関連した知識を得、不備な面を修正するのである。アイデアを昇華させるキーは「人に話すこと」と言える。
自分の頭の中だけで考えている時は陰に考えているので、そのアイデアのすべてが正しく思える。しかし、人に話す時には相手を納得させようとするので、陽に言わなければならない。すると、自分のアイデアのどこに穴があるのかわかってくる。
著者 金出 武雄
1945年生まれ。カーネギーメロン大学ワイタカー記念全学教授 京都大学電子工学科助教授を経て、1980年にカーネギーメロン大学ロボット研究所高等研究員に。同研究所准教授、教授を経て、1992~2001年所長。 2006年生活の質工学研究センターを設立しセンター長。日本では2001年、産業技術総合研究所デジタルヒューマン研究センターを設立、センター長を兼任、現在は同研究所特別フェロー。 自動運転車や自律ヘリコプター、アイビジョン、顔認識、仮想化現実、一人称ビジョンなど、ロボット工学・画像認識の世界的権威であり、現在も日米を往復して独創的な研究を続けている。
帯 棋士 羽生 善治 |
章名 | 開始 | 目安 | 重要度 |
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第1章 素人のように考え、玄人として実行する | p.1 | 54分 | |
第2章 コンピュータが人にチャレンジしている | p.79 | 43分 | |
第3章 自分の考えを表現し、説得する | p.141 | 48分 | |
第4章 決断と明示のスピードが求められている | p.211 | 28分 | |
おわりに | p.251 | 3分 | |
新版あとがき | p.255 | 8分 |
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