「セブンイレブンのマネをしろ」と言われ続けた「万年2位」のコンビニ、ローソン。諦念と停滞の中で就任した新浪社長が行った経営改革の10年間を描いた本。
ローソンの経営戦略がよくわかります。
■社長就任
2002年5月、新浪はローソン社長に就任した。社長として臨む初めての朝礼で、社員たちを前に語りかけた。「ぜひ、どのチェーンにも負けないような、うまいおにぎりを作りたい」
白けた空気が場を包む。古参社員たちの中には、筆頭株主・三菱商事から送り込まれてきた新社長の発言に失笑する者もいた。小売りについて何も知らないハーバード大学MBAホルダーのエリートが気まぐれを言っているに違いない、と。社内を覆っていたのは、社員たちの、経営に対する不信感だった。
ローソン社員は、親会社からの無理な指示に疲弊していた。1997年、苦境に陥ったダイエー救済のために中内功はローソン上場を決定。99年に新浪に「三菱商事出資」を打診。ローソンは上場前に成長性を演出するために過剰に出店した「副作用」に苦しみ、業績が悪化し始めていた。そして、ダイエー出身の役員たちが去り、新浪が現れた。ローソン社員から見れば「ダイエー」が「三菱商事」に代わったに過ぎなかった。
■中央集権から地方分権へ
ローソンはセブンになれない。同じ土俵の総力戦に引き込まれたら負けるのであれば、戦力を集中投下して「勝てる局地戦」に必ず勝つ。どうしても勝てないなら、イノベーションによって「戦いのルール」を変える。「勝てない」という先入観と諦念を打ち壊していく。つまり「劣化版セブン」ではなく、ローソンという「唯一無二の存在」になる。新浪がこの10年で取り組んできた事を一言で言うならそれだ。これが実現した時に、初めてローソンはセブンと戦う事ができる。
均質なサービスが受けられるだろうという期待を抱かせる性質は、コンビニの特性である。しかし、新浪は均質性をある程度まで犠牲にしてでも「多様性」を手に入れようとした。「ナチュラルローソン」「ローソンストア100」など多様な店舗を展開する。これは顧客が「均質」でなく「多様」になりつつあるからだ。「マス」でなく「個」として消費者を捉えて、業態すら変えていく事でその層に対応していくという訳だ。
セブンは加盟店オーナーに店舗運営指導するOFCを全国から呼び集めて鈴木会長の肉声を届けるという「中央集権」によって、消費行動を読んで「仮説」を立てて発注し、POSによる販売実績でその仮説を「検証」する「単品管理」の理念を全国の店舗に徹底して浸透させている。
ところが新浪が就任後間もなくから進めたのは、中央集権と正反対の「地方分権」、徹底した現場への権限移譲だった。「支社制」を導入し、支社長に一定の金額・人事についての決裁を委ねた。併せて、出店の意思決定や商品戦略など、本社がコントロールしていた機能の大半を委譲。本社の基幹機能である「商品開発」機能の一部すら支社に移してしまった。
新浪は「分権」する理由をこう言う。「現場に近づけば近づくほど仮説の精度が上がる」。「地域密着」「高齢者対応」などの大きなビジョンを経営が示せば、むしろ、現場に近い支社が精度の高い仮説を立ててイノベーションを起こしていく。「首位に比べて劣化した中央集権」の仕組みを続けては、いつまでも勝負を挑むことすらできない。だから、新浪は「地方分権」へとマネジメントのスタイルを反転させて見せたのだ。
■個を動かす
新浪が取り組んできた経営革新は、「個」と向き合うために戦略が組み上げられてきた。マスとしてでなく「個」としての顧客、「個客」のニーズに応えるために、店舗はそれぞれ地域に密着した「個性」を持つべきと考えた。そのために人材自体にも多様性を持たせつつ、現場への大胆な権限委譲を試みた。併せて、加盟店が地域の顧客に対してより高密度のコミュニケーションを取れるように、運営に関する権限を大幅に委譲した。
著者 池田信太朗
『日経ビジネス』記者 ビジネス情報誌『日経ネットブレーン』、中小企業向けIT情報誌『日経IT21』、『日経アドバンテージ』、定年退職者向けライフスタイル誌『日経マスターズ』の編集・記者などを経て、2006年から『日経ビジネス』で小売り業界を中心に取材、執筆。2011年12月に『日経ビジネスDigital』の立ち上げを担当し、2012年1月から編集長。2012年9月から香港支局特派員。
ビジネスブックマラソン 土井 英司 |
日経ビジネス Associe (アソシエ) 2013年 02月号 [雑誌] |
日経ビジネス |
日本経済新聞 |
章名 | 開始 | 目安 | 重要度 |
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はじめに | p.1 | 4分 | |
第1章 試された「分権経営」── ドキュメント・東日本大震災 | p.13 | 10分 | |
第2章 迷走する経営と上場の「傷跡」── 社長就任前夜 | p.31 | 14分 | |
第3章 一番うまいおにぎりを作ろう──「成功体験」を作る | p.55 | 15分 | |
第4章 「田舎コンビニ」を強みに転じる ── 「ダイバーシティーと分権」の導入 | p.81 | 23分 | |
第5章 オーナーの地位を上げましょう ── 「ミステリーショッパー」の導入 | p.121 | 12分 | |
第6章 加盟店オーナーにも「分権」──「マネジメント・オーナー」の誕生 | p.141 | 14分 | |
第7章 「個」に解きほぐされた消費をつかむ ── 「CRM」への挑戦 | p.165 | 21分 | |
第8章 「強さ」のために組み替える ── 「BPR」の取り組み | p.201 | 16分 | |
第9章 僕が独裁者にならないために ── 集団経営体制と新規事業 | p.229 | 18分 | |
第10章 人間・新浪剛史 ── その半生 | p.261 | 14分 | |
【インタビュー】スクウェア・エニックス 和田 洋一社長 | p.285 | 6分 |