行動経済学研究の第一人者である著者が、人が不正をする仕組みを解説。
様々な実験を通して、ごまかしの法則を紹介している。
■シンプルな合理的犯罪モデル(SMORC)
SMORCの不正に対する考え方は、3つの要素からなる。
①犯罪から得られる便益
②捕まる確率
③捕まった場合に予想される処罰
合理的な人間は、最初の要素(便益)と残りの2つの要素(費用)とを天秤にかけて、一つひとつの犯罪が実行に値するかしないかを判断できるという。この考え方によれば、ごまかしをしてもばれたり罰されたりせずに、より多くのお金が得られるチャンスがある時、人はもっとごまかしをするべきだという事になる。
しかし、実験によれば、不正は単に費用と便益を分析した結果行われる訳ではない事を示した。チャンスを与えられると人は、ほんのちょっとだけごまかしをする。
正直と不正は、全く異なる2つの動機づけに動かされている。私たちは一方ではごまかしから利益を得たいが、その一方では自分を素晴らしい人間だと思いたい。この2つの矛盾する目的を、人は柔軟な論理的思考と正当化の能力によってやってのける。
不正に影響を及ぼす要因として、不正をして得られる金額や、捕まる確率などは、一般に考えられているよりもずっと小さい。逆に予想以上に大きな影響を及ぼす要因には、道徳心を呼び起こすもの、現金からの距離、利益相反、消耗、偽造品、捏造した成績を思い出させるもの、創造性、他人の不正行為を目撃する事、チームメンバーへの思いやりなどがある。
不正行為を減らすには、次のような方法が効果的である。
①誓約・署名
人は何かの誓約書に署名すると、より正直な気分になる。私たちは倫理基準を思い出させられるだけで、より高潔な行動をとるようになる。
②道徳心を呼び起こすもの
十戒や聖書など宗教的なものを用いるのも効果がある。
③監視
監視がある程度役に立つ。しかし、監視の強化だけでは、不正を正当化する私たちの能力を完全にねじ伏せる事はできない。
著者 ダン アリエリー
1968年生まれ。デューク大学教授 行動経済学研究の第一人者。テルアビブ大学で心理学を学んだ後、ノースカロライナ大学チャペルヒル校で認知心理学の修士号と博士号、デューク大学で経営学の博士号を取得。 その後、MITのスローン経営大学院とメディアラボの教授を兼務した。この間、カリフォルニア大学バークレー校、プリンストン高等研究所などにも籍を置いている。 18歳のとき、全身70%にやけどを負う事故にあい、3年間を病院で過ごした。その結果、いささか型破りなものの見方を身につけたという。その研究のユニークさは、2008年度にイグノーベル賞を受賞したことでも証明されている。
帯 東京大学教授 松原 隆一郎 |
ビジネスブックマラソン 土井 英司 |
マインドマップ的読書感想文 smooth |
週刊 東洋経済 2013年 1/26号 [雑誌] |
日本経済新聞 中央大学教授 田中 洋 |
章名 | 開始 | 目安 | 重要度 |
---|---|---|---|
序 章 なぜ不正はこんなにおもしろいのか | p.9 | 7分 | |
第一章 シンプルな合理的犯罪モデル(SMORC)を検証する | p.19 | 15分 | |
第二章 つじつま合わせ仮説 | p.40 | 20分 | |
第二B章 ゴルフ | p.67 | 9分 | |
第三章 自分の動機で目が曇る | p.79 | 23分 | |
第四章 なぜ疲れているとしくじるのか | p.110 | 15分 | |
第五章 なぜにせものを身につけるとごまかしをしたくなるのか | p.131 | 20分 | |
第六章 自分自身を欺く | p.159 | 18分 | |
第七章 創造性と不正──わたしたちはみな物語を語る | p.184 | 23分 | |
第八章 感染症としての不正行為──不正菌に感染するしくみ | p.215 | 20分 | |
第九章 共同して行なう不正行為 ──なぜ一人よりみんなの方がずるをしやすいのか | p.243 | 15分 | |
第一〇章 半・楽観的なエンディング ──人はそれほどごまかしをしない! | p.264 | 15分 |
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