ポーターの戦略だけでは、もう通用しない
統計的な分析を用いた研究により、現在の競争戦略は、ポーターの考えだけでは十分でない事がわかってきている。
・アメリカでは「持続的な競争優位」を実現する企業は2〜5%に過ぎない。近年では競争が激化する事で、競争優位を持続させる事が難しくなっている。
・一方、一度競争優位を失ってからその後再び競争優位を獲得する企業が増加している。即ち、現在の優れた企業とは、長い間安定して競争優位を保っているのではなく、一時的な優位を鎖のようにつないで、結果として長期的に高い業績を得ている。
・競争が激化した状況下では、攻めの競争行動(新製品の投入、大がかりな販促活動、価格引き下げなど)を行う方が、その後の市場シェアが上昇する。
ポーターの競争戦略論とは、ライバルとの競争を避けるための「ポジショニング戦略」、いわば守りの戦略である。近年の研究における「攻めの競争行動」は、ポーターの競争戦略とは逆の考え方のように聞こえる。しかし、この2つの主張は必ずしも矛盾するものではない。
ある企業が積極的な競争行動をとれる一つの条件は、ライバルとの市場セグメントの重複が少ない事という研究結果がある。つまり、ポジショニングによって、差別化できれば、結果として積極的な競争行動もとりやすくなる。現在の競争環境下では、ユニークなポジションをとって「攻めの姿勢をとりやすくする事」が重要になってきている。
イノベーション研究の最先端
イノベーションの本質の一つは、知と知の組み合わせから新しい知を生み出すことである。そのために企業は、知の幅を広げる必要がある。しかし、組織のキャパシティには限界があり、知は多様すぎると全体として効率が悪くなる。
新しい知を求める活動を「知の探索」、既存の知識を改良していく事を「知の深化」という。企業にとって、継続的なイノベーションを実現するには、この2つを同時にバランス良く実現する必要がある。
しかし、企業組織は本質的に知の深化に傾斜しがちで、知の探索をなおざりにしやすい。事業が成功している企業ほど、この傾向が強く、これをコンピテンシー・トラップという。コンピテンシー・トラップとイノベーションのジレンマは同じようなイノベーション停滞のリスクを論じているが、前者はより組織に内在するリスクとして理論化されている。
イノベーションの停滞を避けるために、企業は組織として知の探索と深化のバランスを保ち、コンピテンシー・トラップを避ける戦略・体制・ルール作りを進める事が重要である。これを「両利きの経営」と呼び、世界のイノベーション研究の最先端では「イノベーションのジレンマ」よりも注目されている。