「新幹線劇場」はどのようにして生まれたのか?
7年前のテッセイは、普通の清掃会社に過ぎなかった。与えられた仕事は真面目にこなすが、それ以上の事はやろうとしない。多くのスタッフは「自分たちは清掃員」という意識に染まり、なるべく目立たないように仕事をしていた。
「新幹線劇場」の仕掛け人である矢部輝夫さん(現専務取締役)がテッセイに着任したのは平成17年7月。当時、JR東日本社内で聞こえてくるテッセイの評判は、芳しいものではなかった。
着任後、矢部さんは「テッセイをトータルサービスの会社にしたい」と思い、以下の施策を実行していった。
①取り組むべきテーマを設定した
会社の主力部隊である車両清掃を担う人たちの意識と行動を変えるために、「トータルサービス」のコンセプトを掲げた。
②目指すべきサービスを実践する「モデル」をつくった
案内業務やコンコースの清掃を担当するチーム「コメットさん」をつくり、制服を新調。自ら教育や訓練にあたり、意識を変えていった。
③現場の環境整備を行い、本気度を示した
多くのスタッフに本気で取り組んでもらうために、働きやすい環境を整備。待機所にエアコンを設置した。
④組織を再編し、縄張り意識を解消した
普通車とグリーン車の清掃を担当する組織に分かれていたのを統合し、会社全体が一つにまとまるそうにした。
⑤社内イベントを実施し、一体感を高めた
立派なホテルで、「トータルサービスとは何か」を考えるパネディスカッションを行った。また、車両清掃の技を競う「車両清掃競技会」をリニューアルし、新幹線の実車を借り切って行うという本格的なものに変えた。
⑥人事制度を変え、やる気のあるパート社員を正社員採用した
正社員採用試験は45〜58歳でなければ受けられないという旧制度を改め、パート歴1年以上で正社員採用試験を受けることができるようにした。
⑦テーマを明確化し、それを具体化するための委員会を設置した
「トータルサービス」という言葉に『みんなで創る「さわやか・あんしん・あったか」』というフレーズを付け加え、分かりやすくした。さらに、経営陣と現場が一緒になって具体的なアクションを議論する「場」を用意した。
⑧小集団活動、提案活動を活発化させた
現場のサークル活動を増やし、気づきに基づく提案を提案箱に入れてもらう仕組みを強化した。
⑨褒める仕組みを導入した
よい取り組みの具体例を示し、それを実践した人を褒める仕組み「エンジェル・リポート」を開始。現場のリーダーに、スタッフの良いところを探し、褒めることを大切な仕事として与えた。
⑩現場への大幅な権限委譲を行った
大規模な予算を伴うものでなければ、それぞれの現場で判断し、実行に移すことができるようにした。