女性誌『STORY』『美ST』の元編集長で『美魔女』ブームを巻き起こした著者が、そのマーケティング手法を紹介。雑誌編集者が、どのように人々の欲望を掘り起こし、新しい市場をつくるのかがわかります。


■欲望のマーケティング
モノが売れない状況は出版社も例外ではなく、一般的に創刊誌はことごとく失敗し、「雑誌の時代は終わった」という声さえ聞こえる中、40代女性を中心にした月刊誌『STORY』（ファッション誌）と『美ST』（ビューティー誌）は、同ジャンルにおいて最も売れている雑誌である。

中でも2008年11月に創刊された『美ST』は、アラフォーをターゲットとしたビューティー誌として「美魔女」ブームを生み、広くアンチエイジング市場を活性化するという新しいマーケットを切り拓いた。

新しいマーケットを見つけ、ブーム化できた理由は「欲望」にある。まだ認知されていない、人々の欲望をマーケティングし、それをコンテンツ化、ブーム化できれば、そこには新たな消費が発生する。

この過程では、雑誌メディア独自のメソッドが有効である。「絞り込む＋巻き込む＋揺り動かす」という3段階の働きかけである。

■欲望のマーケティングで大事なこと
・「言えない欲望」を認知すること
・そのために「黄金のひと言」を聞き取ること（市場を変える情報は量より質）
・掘り起こした「根源的な欲望」から、もっと大きな母集団の「言語化されない欲望を掘り起こすこと
・その欲望を解決するブランディングで、新たなプロダクトを生み出し、ライフスタイルを変えること

ポイントは「絞り込む」「巻き込む」「揺り動かす」という3段階の働きかけである。


■揺り動かす
新しいマーケットで消費を発生させるには、ターゲットを「揺るがす」ことがベストである。

①理想と現実のギャップを感じさせ、理想に近づこうと思わせる
理想は「憧れbut手が届かない」ではなく、「憧れand遠くない」でなければならない。「頑張れば近づけるかも」という理想があれば、現実との間のギャップを埋めようと、そこにマネタイズの可能性が生まれる。

②通販番組の手法を取り入れる
「現実」という曖昧な自分の立ち位置は、「他者との比較」からしか実感できない。そのためには「実例」が必要となる。

しかし、消費者はリアルな自分を知りたくない。例えば、「あなたはデブですよ。ちゃんとわかってますか？」と働きかけても逆効果である。そのために、通販番組は他人の醜いお腹を「実例」とし、揺るがす効果を演出している。

③「なんとなく不満」からマーケットをつくる
リアルすぎる現実は「あきらめ」に直結してしまうため、「なんとなく不満」という状態が消費発生のためにはベストである。例えば、「シミ、しわ、たるみ」は「なんとなく不満」の代表選手である。『美ST』では「もはや医療級！コンシーラーで私の肌にメス！」という記事で「シミ、しわ、たるみ」をコンシーラーで消すという企画を行った。「なんとなく不満」の共感を引き出すために美魔女を登場させた。こうして読者がマイナスの共感をすることで、「なんとなく不満」に火が付く。ここで一番大事なのは「なんとなく不満」のディテールを刺激すること。

④「みんな一緒」でマネタイズする
「揺るがす」ために効果的なファクターには「本当はみんな知っている、やっている」という共感と「乗り遅れちゃう」という強迫感がある。そのためには「みんな」を実感できるコミュニティが形成される必要がある。このコミュニティは、「豊洲の高級マンションに住むオシャレママ」といった分類のように、あちこちに分散して存在する。

著者 山本 由樹

1962年生まれ。株式会社gift 代表取締役社長 大学卒業後、光文社に入社。週刊『女性自身』で16年、その後週刊『DIAS』を経て、2002年『STORY』創刊メンバーとなる。 2005年~2011年まで同誌編集長。2008年には『美STORY(現『美ST』)』を創刊し、2010年から「国民的美魔女コンテスト」を開催。「美魔女ブーム」を作る。