こころの定年
同じ会社に勤めていても年代によって会社の風景は大きく変わる。学生時代からの移行時期の新入社員時代、初めて部下を持った30代、働く意味に悩み、家族の重荷も感じる40代、定年後の生活に思いをはせる50代などである。1つのスタンスだけで長い勤め人生を送ることはもはや無理である。
中高年になって組織から転身した人達の話を聞いていて気が付くのは、早い人で30代後半、普通は40歳くらいから「このままでいいのだろうか?」と揺れ始める人が多いことだ。「今やっている事が、誰の役に立っているのか」「成長している実感が得られない」「このまま時間が流れていっていいのだろうか」
組織で働く意味に悩むこの状態を「こころの定年」と名付けた。40歳を過ぎるあたりから、仕事中心の働き方の一面性に疑問を感じ始める人が出てくる。その背景には、昇進や専門性の向上に力を入れて一定のポジションを確保しても、それまでと同じやり方では人生80年を乗り切れないと多くの会社員が感じるからだ。
若い時には、収入を増やそう、技能を高めよう、家も建てよう、役職も上がっていこうというように成長していく気分が強いが、そのままの心理状態が続かないことは、なんとなくわかっている。加えて現実的には「飽きる」ということもある。
人生50年の時代は、1つの山を越えるだけで良かったが、現在は複数の山があり、中年は人生の折り返し地点に過ぎない。仕事生活から、成熟した人生への切り替えが求められている。
ドラッカーも第2の人生に言及している。この第2の人生の課題は次の3つの方法によって解決できるという。
①文字通り第二の人生を持つこと
②第二の仕事を持つこと
③ソーシャル・アントレプレナーになること
ドラッカーは、この第2の人生を持つためには、はるか以前から助走をしなければならないとしている。
サラリーマンは二度辞める
多くの転身者の話から考えると、積立型の生き方と逆算型の生き方がある。若い内は、社会に適応するために新しい技能を身につけ、家族を養うことを第一義に、人生で得るものを積み上げいく。一方、40歳を超えた頃からは、死を意識しながら、そこから逆算して人生を考える方向に移行する人が少なくない。
逆算型の生き方は、合理性や効率を中心にする企業システムに対して、その突破口になる可能性を秘めている。人生の最終地点から今後の生き方を見つめ直すことこそが、「こころの定年」に対する有効な姿勢になる。
そして「こころの定年」に対する1つの回答は、自分なりの物語を発見すること。それは周囲から評価されるとかではなく、ささやかでも自分はこれに賭けたいという心持ちが大事である。