過去の大恐慌と現在の経済危機を比較しながら、グローバル化と資本主義の本質についてを追究している本。
■現代の経済危機は単なる景気循環の一時的後退局面ではない
今回の一連の経済危機は、2002〜2008年まで続いた世界的なバブルが崩壊したところから始まった。欧米の主力金融機関が極端にレバレッジを拡大したために、あり余った資金が世界中を駆け巡った。その結果、不動産バブルが生まれ、リーマン・ショックで崩壊に向かい、第二幕として欧州危機が始まった。
欧州の金融機関は米国、東欧、東アジアなど世界中に過剰融資を行ってきたが、これが縮小していく中で、資産デフレが悪化していく。さらに、欧州での景気の落ち込みは、欧米への輸出を伸ばすことで急成長を遂げてきた中国などアジア諸国の実態経済にも影響を与える。
米国、EUという二つのエンジンを失った世界経済は、大恐慌のあった20世紀前半にも似た乱気流に突入しようとしている。1930年代の世界恐慌と比較すると、リーマン・ショック後の世界は穏やかに見える。しかし、それは経済の崩壊を防ぐために、政府が借金をして支出を増やすことで需要をつくり続けているからである。つまり、政府の債務はこれからも拡大していく。そして、深刻な不況が長期にわたって続く可能性が非常に高い。その意味で、今直面している状況は恐慌と呼べる。
グローバル化は、一度始まったら一直線で進む不可逆的なプロセスではない。歴史を見る限り、グローバル化はある時点で、必ず反転する局面を迎える。
現実の経済の流れを見ても、脱グローバル化へ向かう下地はできあがっている。グローバルな経済収支の不均衡が構造化されている上に、資本移動の自由が認められた現在のグローバル経済では、今回の危機が短期的に回避されても、いずれまた、強大なバブルが生成され、崩壊し、危機的な状況に陥る。そうした局面では、問題を解決するために国家が前面に出てくるのは避けられない。
不安定化した経済とせり出してくる国家の動きが、国際政治の大きな緊張と結びついた時、グローバル化は直ちに、脱グローバル化へと転換する。日本はグローバル経済についての根拠のない楽観から抜け出し、今後の世界が進むかもしれない、脱グローバル化のシナリオを想定する必要がある。
戦前の場合、それは保護主義とブロック化の果てに戦争へと向かった。それと同じ過ちを繰り返すべきではない。危機後の世界に求められているのは、グローバル化から脱グローバル化への転換を、できる限りゆるやかに進めていくことである。
グローバル化は、先進国、新興国のどの国でも、恩恵を受ける層と、そこから取り残される層の間で対立を激しくする。こうした不公正の拡大や、それによる政治的不安定こそ、これから各国が克服しなければならない、資本主義の最も大きな課題である。
「市場経済」という観点からグローバル化を擁護する人々は、市場の効率性を優先するあまり、公正や安定といった社会の別の価値を切り捨ててしまう傾向にある。しかし、これから国内の政治的対立や国家間の対立が激しくなる中で、それらを切り捨てることはもはや不可能である。国内レベルでも国家間レベルでも、社会的公正や政治的安定をいかに実現するかが問われてくる。
著者 柴山 桂太
1974年生まれ。滋賀大学 経済学部社会システム学科 准教授 専門は経済思想、現代社会論。2002年滋賀大学経済学部講師に就任。2004年に助教授となり、2007年より同准教授。
帯 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構総務企画部主幹 中野 剛志 |
週刊 東洋経済 2012年 10/6号 [雑誌] |
エコノミスト 2012年 10/30号 [雑誌] |
エコノミスト 2012年 11/6号 [雑誌] 芝浦工業大学 工学マネジメント研究科 教授 渡辺 孝 |
章名 | 開始 | 目安 | 重要度 |
---|---|---|---|
はじめに | p.3 | 2分 | |
第1章 「静かなる大恐慌」に突入した | p.17 | 15分 | |
第2章 グローバル化は平和と繁栄をもたらすのか? | p.43 | 13分 | |
第3章 経済戦争のはてに | p.67 | 24分 | |
第4章 行きすぎたグローバル化が連れてくる保護主義 | p.109 | 15分 | |
第5章 国家と資本主義、その不可分の関係 | p.135 | 17分 | |
第6章 日本経済の病理を診断する | p.165 | 13分 | |
第7章 恐慌以降の世界を生き抜く | p.189 | 8分 | |
おわりに | p.218 | 2分 |
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