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技術ではなく「問題の発明」こそがイノベーションだ

技術神話から抜け出せず、新しい革新的ヒット商品を生み出せない日本。
どのようにして、新しい市場をつくり出せば良いのかを解説する1冊。


■技術ではなく「問題」の開発が必要
技術を本当に有価値にするのは、「それを使ってこんなふうにすれば、こんなに役に立つ」という用途の設計、開発である。技術開発と用途開発は、両方がバランス良くなくてはいけない。しかし、日本企業は、供給側の強化ばかりに腕を磨き、需要側の開発が弱い。

新しい市場をつくるのには、まず新しい文化、生活習慣、ライフスタイルの登場が必要である。しかる後に、競合他社が参入してきて「業界」ができてくると、性能やコストの競争になり、製品技術や生産技術上の差別化が争点になる。本当に市場が創造される最初の最初は、生活をこんなふうに変化させたい、という文化の話であり、技術開発でなく、企画にまつわる話となる。

例えば、ウォシュレットの例でいうと、確かにまずは技術的に可能であるという前提が満たされていなくてはならないが、それは後知恵でしかない。そもそもトイレで用を足した後にお尻を温水で洗いたいのに、今は洗えない、という問題が設定されていなければならない。それを叶えるモノを使うと良いことがあるという価値観、それを実践するライフスタイルが構想されていなければならない。

超短要約

■問題を設定せよ
今暮らしの中で使っている多くのモノが、まず最初に「こんなものがあればいいのに」というコンセプトから創造されたのは、日本国内でのことではない。家電や車、コンピュータにせよ、その多くは最初は欧米で「それがないこと」が問題として設定され、その解決手段として実物が開発されてきた。

そして、日本の産業から生み出された成果の多くは、独自の問題設定自体ではなく、それをより良く解決する、ツールを生み出すところにあった。それらはより経済的に、より軽薄短小に、使用者にとってエネルギーコストや空間的コストを節約させる手段として、はなはだ競争力が強い商品となった。ただ、それは問題の設定ではなく、問題の解決に向けられていた。

ソニーのウォークマンがアップルのiPodにまでつながるような「外出中でも好きなところで移動しながらでも音楽を聴きたい」という問題を最初に設定できたのは、本当に珍しい。

どんな工業製品も、当初想定されていた需要や用途から見ると、過剰品質、過剰供給という状態にいつか陥る。コモディティ化して誰からも商品として旨味がなくなってしまう。

日本は、最先進の工業化社会の一つとして、その創造性を問題解決手段の改善のみならず、むしろ問題の設定に向ける時代が来た。

■新しい商品を開発するとは
新しい商品を開発するとは、そのことによってどのように社会を変え、どのような未来をつくるか、その構想から形に落とし込むということである。

その時に、マーケティング論で言われるような「消費者の潜在ニーズをきちんと目をこらして発見しよう」という考えには共鳴できない。「生活者が望む商品や生活の形はあらかじめ決まっているが、それがわからないだけで、あらかじめニーズは存在している」という事前決定論的な思い込みの罠にはまってしまう可能性がある。

実際には、生活者はいろいろな暮らし方に魅力を感じ、新しい問題設定に適応し、かなり自由に様々な価値を享受するように価値観が変化する可能性の幅、偶有性が存在している。

最先端を行くフロントランナーにとっては、自分が開発する文化が事後的に社会のニーズとなる。事前決定論にとらわれていては、商品開発主体の創造性を大きく損なってしまう。

著者 三宅 秀道

1973年生まれ。東海大学政治経済学部専任講師 都市文化研究所、東京都品川区産業振興課などを経て、2007年早稲田大学大学院商学研究科博士後期課程単位取得退学。東京大学大学院経済学研究科ものづくり経営研究センター特任研究員を経て、2010年より現職。 専門は、製品開発論、中小・ベンチャー企業論。これまでに大小1000社近くの事業組織を取材・研究。現在、企業・自治体・NPOとも共同で製品開発の調査、コンサルティングにも従事している。

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章の構成 / 読書指針

章名 開始 目安 重要度
第1章 さよなら技術神話 p.2 20分
第2章 新しい「文化」を開発する p.30 24分
第3章 「問題」そのものを開発する p.64 23分
第4章 独自技術なんていらない p.96 16分
第5章 組織という病 p.118 20分
第6章 「現場の本社主義」宣言 p.146 31分
第7章 価値のエコシステムをデザインせよ p.190 27分
第8章 ステータスと仲間をつくれ p.228 34分
第9章 ビジネスの外側に目を向けよ p.276 14分
第10章 地域コミュニティにおける商品開発 p.296 27分
終章 希望はどちらにあるか p.334 19分
あとがき p.361 4分

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