形骸化するリーダーシップ
明治の帝国陸海軍は日露戦争の体験をもとに大山巌と東郷平八郎に代表される「威厳と人徳」のイメージをリーダーの基本にすえた。実際の大山と東郷は、付与された総司令官の権限を行使していたが、やがて昭和になると、「威厳と人徳」は、つまるところ「作戦にうるさく口出ししない指揮官」、「重箱の隅をつついたりすることのない将」という人物像へと結んでいく。
近代日本の軍隊は、日本型リーダーシップを確立し、意思決定者が誰であるのかをよく見えなくし、責任の所在を何となく曖昧にしてきた。指揮官には威厳と人徳があればいい。実質的にリーダーシップを発揮するのは参謀だった。そこで参謀が重視された。しかし、参謀は軍の行動計画を立案し命令を起案するといった、いわゆるスタッフである。
そして、参謀には責任を取らせると、自由な発想が阻害されるという理由により、責任が負わされなかった。この事により、リーダーの権威を笠にきて権限を振り回す参謀が輩出されていき、国を滅ぼすことになった。
リーダーに必要な6つの条件
危機の時代における真のリーダーシップはいかにあるべきか。太平洋戦争の教訓から、リーダーには次の条件が求められる。
①最大の仕事は決断にあり
リーダーがすべき最も重要なことは、自分で考えて判断し決断すること。つまり、リーダーは人に決断を任せてはならない。
②明確な目標を示せ
立派なリーダーは、自分達の組織の目的を明確にし、さらに目的に向かうための価値観を部下と共有し集団を引っ張っていく。
③焦点に位置せよ
「焦点に位置せよ」とは、言い換えれば「権威を明らかにすべし」ということ。一番上に立つものは、自分がどこにいるかということを絶えず明確にしておかなくてはならない。危機の時、下の人たちの視線は必ずトップの人に注がれる。その時トップの人のありようが大事である。
④情報は確実に捉えよ
情報というものは厄介なもので、中には単なる雑音でしかないものもある。大事なのは、情報は自分の耳でしっかり聞くこと。出所がわからない情報を大事にして、とんでもない判断を下すということがある。
⑤規格化された理論にすがるな
何かにつけ「前回は成功したのだから、前回と同じようにやろう」となりがちである。日本海軍は日露戦争の成功体験を引っ張って、もう一度それをやろうとした。時代は急激に動いている、状況は常に変化していることを勘定に入れずに同じことをやっていてはダメなのである。
⑥部下には最大限の任務の遂行を求めよ
人は部下というものを、ついつい小手先で使ってしまいがちである。