看板を失うということ
企業を辞めて独立するということは、これまで仕事のよりどころとしてきた「看板」を失うことである。例えば、ソニーの事業部長という肩書きに大きな意味があるのは、その人の仕事がソニーという大企業の一部を担っているから。それを捨てて外に出ると当然、その能力はゼロリセットされる。どれだけ自分の能力に自負があろうともこれを忘れてはならない。
つまり、独立するとこれまで当たり前のようにできていたことが突然できなくなった自分と直面することになる。取引先が急にアンフェアになったり、馴染みの業者の発言が急に杓子定規になったり。何にも増してしんどい事は、自分がとても小さく見えてくること。こういう事に耐える自信がない人は、独立起業はやめておいた方がいい。独立に適しているのは、最初からプライドなど持っていない人か、逆に「いつか見てろよ」みたいなコンプレックスをバネにできる人のどちらかかもしれない。
起業に必要なもの
自分で起業するのに「学校に行く」だとか「資格を取る」といったことから始めようとする人がいるけど、資格や学歴というのは、どこかの企業に雇ってもらうための指標に過ぎない。資格や学歴は、自分の選択肢を狭めてしまうように思う。
「起業するには何が必要か?」と聞かれたら、「強い願望です」と答える。起業というのは打ち上げロケットみたいなもの。「◯◯を××したい」という強烈な願望ありきのものであり、その願望が最初にないと、ロケットが軌道高度まで登る前に燃料が尽きて失速してしまう。
具体的な願望
ゲーム業界には、2つの業態がある。一つは顧客から受託して外注業者としてゲーム開発する会社。もう一つは、自社でゲームソフトを企画開発して発売する会社。後者は、社内に強力な願望エンジンを持っていないと、途中で新企画が転倒する業態である。
前者の社長はほぼ全員、こう言う。「資金に余裕ができたらうちも早く自社タイトルを作りたいんだ」と。しかし、これでは何年やっても自社タイトルなど作れない。受託プロジェクトという仕事では、社内に強い願望が育たない。オリジナル商品への憧れはあっても、「不屈の願望」とは違う。願望という名の具体的なエンジンを社内に持っていない限り離陸しない。
起業を考えている人は、自分と向き合って、強くて具体的な願望が自分にあるのかを自問自答しなければならない。
社員たちが入社し、色々なことが起きるようになると、いつしか自分の願望を見失ってしまうケースがあり、日常に埋没しない不屈の願望力というのは意外に持ち続けることが容易ではないと気付く。だからこそ、起業に必要なものは願望であると答える。