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2012/10/14更新

日本農業への正しい絶望法 (新潮新書)

173分

8P

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日本の農業はダメらしい

日本の農業問題の裏側をホンネで語っている過激な日本農業論。


■耕作技能の低下こそが日本農業の最大の危機
元々、日本には優れた耕作技能があった。おいしくて安全な作物を自然環境と調和しながら作る技能があった。ところがその技能がどんどん死滅している。

そもそも今の日本社会は、耕作技能に対する意識が低い。マスコミで農業問題を論じている「識者」達のほとんどは、素人同然だ。識者は気づいていないが、耕作技能の低下こそが日本農業の最大の危機である。

技能を伴っていなくても、品質や環境への負荷を気にしなければ、食用の動植物を育てることはできる。また、補助金をばらまけば農業生産は必ず増える。味覚が鈍感な消費者に対してならば、少々品質が悪い農産物でも宣伝や演出でごまかせる。

しかし、そんな農業は、かさばかり膨張して中身のないハリボテ農業だ。実際、OECDの推計によれば、日本の農業保護額は4.6兆円で、日本農業の付加価値額の3.0兆円を上回っている。計算上は農業生産をゼロにした方が、国民所得は増える異常事態である。

超短要約

■有機栽培のまやかし
有機栽培を謳っている農産物の大半は自然環境に悪くて食味も悪い。堆肥や有機肥料の原料は家畜の糞尿である。適切な処理をされた糞尿を使えば、環境にも良いし品質の高い農産物ができる。しかし、技能不足の農業家が多く、処理が不適切なものが多い。不適切な糞尿が農地に投入されると、土壌が窒素過多となり、品質が悪くなる。植物に吸収されなかった成分は、農地から河川や地下水へと染みだし、水質汚染を起こす。

環境に適合的に美味しい農産物を作れるかは、有機栽培かどうかの問題ではなく、農業者に技能があるかないかの問題である。スーパーや直売所では、不出来な農産物が「地産地消」「食育」「こだわり」などのスローガンや生産者の顔写真やらを付けて堂々と売られているが、用心した方がいい。

本当に消費者が農業者に技能の修得を望むなら、舌で農産物を評価し、演出や宣伝だけのハリボテのような農産物に「駄目」を出さなくてはならない。

■担い手不足のウソ
マスコミでは、「農業の担い手不足」が報じられる。しかし、地権者は、担い手が現れるのを警戒している場合も多い。

耕作放棄面積の拡大速度では、平場の優良農地の方が速い。そういう農地の所有者の中には、節税や宅地などへの農外転用の目的で農地を持っている場合がある。優良農地は、固定資産税や相続税が減免される見返りとして、転用が規制されていることに表向きはなっている。しかし、規制には抜け穴が多い。農業を装って節税し、機をみて売り抜きたいというのが大多数の地権者のホンネだ。

従って、農地転用の機会を狙っている地権者にとっては、農業に熱心な若者が集落内にいては困る。そこで、いつでも返却に応じてくれる人に限って貸し出す。

■「企業が農業を救う」という幻想
企業の農業参入は、新たな農業のあり方としてマスコミや「識者」の賞賛を集めている。しかし、その多くは赤字続きだ。都心の植物工場で人目をひいている事例があるが、これも膨大な資金投入で支えられているのであって、ビジネスモデルとしては異様だ。

要するに企業は農業ではなく広告をしたいのだ。アルバイトや派遣社員の感覚で人を雇って農作業に従事させ、「見せ物」の農業をしている。そんな事を何年やっても農業者の技能は上がらない。

著者 神門 善久

1962年生まれ。明治学院大学経済学部教授 政策研究大学院大学客員助教授、国際開発高等教育機構客員研究員などを経て、現職。専攻は開発経済学・農業経済学。 独自のネットワークを駆使して農業の研究を続ける。

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帯
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一橋大学経済研究所教授 北村 行伸

章の構成 / 読書指針

章名 開始 目安 重要度
まえがき p.3 3分
第1章 日本農業の虚構 p.15 30分
第2章 農業論議における三つの罠 p.67 6分
第3章 技能こそが生き残る道 p.77 19分
第4章 技能はなぜ崩壊したのか p.109 10分
第5章 むかし満州いま農業 p.126 12分
第6章 農政改革の空騒ぎ p.147 25分
第7章 技能は蘇るか p.190 23分
終章 日本農業への遺言 p.229 4分

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