ノーベル賞経済学者である著者が、米国が不況から脱するため解決策を提示している。結論は「政府が支出して需要を創出せよ」というもの。
ケインズの唱えた原理は現在も有効であり、かつて米国が大不況に陥ったおり、ニューディール政策や軍事需要を作り、不況を脱したことは、現在も有効に機能するとしている。
日本の「失われた20年」に対する日本の経済政策についても、再度考えさせられる内容です。
■すべては需要が問題
失業率が高く、経済産出が低い理由は、消費者、事業、政府が十分にお金を使っていないからである。住宅建設や消費財に対する支出は、住宅バブルが破裂した時に激減した。企業は売上が縮小し、生産能力を増やしても仕方がないので、事業投資を減らした。さらに地方、州なども収入が減り、政府支出が減少した。少ない支出は、少ない雇用を意味する。僕たちは全体として大きな需要不足で苦しんでいる。
■政府支出を増やせ
通常は、不景気に対する防御の第一陣はFRBで、経済がつまづいたら金利を下げるのが通例だ。しかし、FRBが通常コントロールする短期金利はすでにゼロで、それ以上下げられなかった。
残るは当然、財政刺激策だ。一時的に政府支出を増やすか減税し、全体的な支出を支援して雇用を創出する。オバマ政権は、確かに景気刺激法案を設計して施行した。しかし、総額7870億ドルの財政刺激は、必要な規模よりもはるかに小さすぎた。
7870億ドルの4割近くが減税分だが、減税の需要刺激効果は実際の政府支出増加の半分くらいしかない。さらに、かなりの部分は失業保険やメディケイド維持の支援、地方などへの補助である。人々が景気刺激策という時に思い浮かべる、建設や道路補修などはかなり小さい部分でしかない。
財政政策を支持するのは、政府がもっと支出することで、重債務世帯が金銭的な健康を回復するまで景気があまり深く沈滞しないようにする必要がある。
■財政赤字は問題ない
景気刺激策が不十分だった理由には、ワシントンでの議論が、失業問題から負債と財政赤字が中心になってしまったことがある。雇用から財政赤字に注目を移すべき根拠は、当時も今もない。
政府債務で生じる負担は、定量的な数字で見れば、ずっと小さいし、負債危機が生じるという警告は、ほとんど根拠がない。多くの人が政府による借入で金利が高騰すると信じたが、アメリカの借入コストは史上最低水準だった。停滞経済では財政赤字は民間セクターと資金を求めて競争しないので、金利上昇を引き起こさない。政府は単に、民間セクターの余った貯蓄を使ってあげているだけである。
アメリカの財政赤字や負債は巨額だが、アメリカ経済の規模からみれば、債権市場のパニックを引き起こすような水準には達していない。負債が増え続けても、それがインフレと経済成長の合計よりも伸び率が低ければ問題にならない。負債の増大が経済の拡大よりも小さいようにすればいいだけだ。
■結論
アメリカ経済の基本的な状況は、いまだ2008年以来変わっていない。民間セクターは生産能力を完全に使うだけの支出はしたがらず、従って働きたいのに職がない何百万ものアメリカ人を雇えない。そのギャップを埋める一番直接的な方法は、政府が民間セクターの支出しないところで支出することである。
僕たちには、この不況から脱出するための知識も道具もある。実際、昔ながらの経済学の原理を適用することで、急速に、おそらく2年以下で、おおむね完全雇用に戻れる。回復を阻害しているのは、知的な明晰さと政治的な意志の欠如だけだ。
著者 ポール・クルーグマン
1953年生まれ。プリンストン大学教授 ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス教授 イェール大学助教授、マサチューセッツ工科大学教授、スタンフォード大学教授を経て、現職。 大統領経済諮問委員会の上級エコノミスト、世界銀行やEC委員会の経済コンサルタントを歴任。ニューヨークタイムズ紙の辛口コラムニストとしても絶大な人気を誇る。 1991年、40歳以下の最も優れた経済学者に贈られるジョン・ベイツ・クラーク賞受賞。2008年、ノーベル経済学賞受賞
週刊 ダイヤモンド 2012年 8/18号 [雑誌] 紀伊國屋書店新宿本店第2課係長 水上 紗央里 |
日本経済新聞 |
ビジネスブックマラソン 土井 英司 |
週刊 東洋経済 2012年 9/29号 [雑誌] 東洋英和女学院大学教授 中岡 望 |
THE 21 (ざ・にじゅういち) 2013年 02月号 [雑誌] ジャーナリスト 清水 草一 |
章名 | 開始 | 目安 | 重要度 |
---|---|---|---|
はじめに これからどうする? | p.9 | 4分 | |
第1章 事態はこんなにひどい | p.15 | 17分 | |
第2章 不況の経済学 | p.37 | 20分 | |
第3章 ミンスキーの瞬間 | p.63 | 12分 | |
第4章 たがの外れた銀行家たち | p.79 | 17分 | |
第5章 第二の金ぴか時代 | p.101 | 19分 | |
第6章 暗黒時代の経済学 | p.125 | 17分 | |
第7章 不適切な対応の解剖 | p.147 | 19分 | |
第8章 でも財政赤字はどうなる? | p.171 | 20分 | |
第9章 インフレ:見せかけの脅威(ファントム・メナス) | p.197 | 15分 | |
第10章 ユーロの黄昏 | p.217 | 20分 | |
第11章 緊縮論者 | p.243 | 19分 | |
第12章 何が必要か | p.267 | 14分 | |
第13章 この不況を終わらせよう! | p.285 | 8分 | |
後記 政府支出については実際のところ何がわかっているの? | p.295 | 7分 |
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