投資ファンドに務めながら、NPO法人を立ち上げ、パートタイムで児童養護施設の資金調達の支援などの社会貢献活動を行っている著者が、そのきっかけから実践方法までを紹介している。
■NPO法人Living in Peace
世の中には本業を通じて解決できる問題もあるけれど、本業では直接的な対象としていない問題もある。取り組むべき課題を一つに絞ることは重要だと多くの人が言う。しかし、目の前にたくさんある課題について、きちんと優先順位をつけて自分の24時間を割けば良い。
完全パートタイムのNPOであるLiving in Peace(LIP)は、日本で初となるマイクロファンドである。LIPには、機会の平等を通じた貧困の削減と、パートタイムでもできる事業の見本をつくることへの想いをもった仲間が集まっている。
LIPが児童養護施設の問題に取り組む理由は、深刻な「機会の不平等」があるからである。現在、全国には約580の児童養護施設があり、3万人以上の子供が、虐待や貧困など様々な「親の事情」によって、馴染みのある環境や親、友達から引き離されて生活している。
施設にいる子供が抱える一番の問題は、精神的なものである。子供たちが負っている心の傷は深いが、ほとんどの施設では、お金がなく子供のケア職員の数が不足している。
■パートタイムで社会貢献する意味
パートタイムで社会貢献することには、次のような意味がある。
①本業を通じて得た能力を仕事以外の場所でも今すぐ役立てることができる
②活動を通じて、本業へのモチベーションやノウハウを得られる場合もある
③本業の延長線上では出会うことが難しい様々な人と出会うことができる
■大切なことは関心を持つこと、行動すること
パートタイムで社会貢献なんてできるのかと言われることがあるが、可能であることを示してきた。大切なことは、まず関心を持つこと。持ち続けることが問題解決への第一歩なのは間違いない。
行動のないところには何の変化もないし、行動を何もせずに現状を批判するのは虚しい。本当に世の中をよりよい場所にしたいのなら、自分自身を見つめ直し、まず自分自身から、次に自分の身の回りから変化を起こすことだ。
最初から高く飛ぶ必要はない。地道な一歩から始められる。誰でも気軽にできるアクションには、例えば次のようなことがある。
・友人や家族、恋人に伝える
・本を買ってもう少し勉強してみる
・自分の感想をウェブ上に書き残す
・勉強会を開く
独り言みたいな声を挙げるだけでも、立派なアクションだ。一人だったら独り言でも、1000人が声を重ねたら大音量になる。
■パートタイムの活動でも世界は変えられる
フルタイムでその事業に専念できないことに伴う限界はたくさんある。時間は限られるし、追い込まれた人間の必死さを発揮することも難しいかもしれない。しかし、パートタイムにも次のような強みがある。
・本当にやりたい活動だけをすることができる
・失敗した時に失うものが本業に比べて小さく、より大胆な取り組みができる
・柔軟に組織を変化させることができる
今はインターネット上で多くのことができるため、パートタイム組織でもできることは増えている。
■パートタイム組織のつくり方
①存在意義を見出す
②走りながら考える。考えすぎても前には進まない。
③多様な仲間を集める
④コアメンバーを増やす
⑤すべての仲間を大切にする
⑥言い出したら一人になっても続ける
著者 慎 泰俊
1981年生まれ。NPO法人Living in Peace 代表理事 モルガン・スタンレー・キャピタルを経て、現在はPEファンドの投資プロフェッショナルとして様々な事業の分析・投資実行・投資先の経営に関与。仕事の傍ら、2007年にNPOであるLiving in Peaceを設立し、カンボジアやベトナムなどで貧困層の金融へのアクセスを拡大するために日本初の「マイクロファイナンスファンド」を企画。
PRESIDENT (プレジデント) 2012年 4/30号 [雑誌] ライフネット生命社長 出口 治明 |
章名 | 開始 | 目安 | 重要度 |
---|---|---|---|
はじめに | p.3 | 6分 | |
1 仕事をしながら社会を変えよう | p.20 | 10分 | |
2 日本の「子どもの貧困」 | p.35 | 12分 | |
3 児童養護施設に住み込みをしてみた | p.54 | 13分 | |
4 現場から見えてきたこと | p.74 | 17分 | |
5 五人の子どもの物語 | p.102 | 17分 | |
6 背景にあるものは何か | p.128 | 15分 | |
7 虐待を受けた子どもの特徴 | p.152 | 6分 | |
8 施設はどう運営されているのか | p.162 | 10分 | |
9 ハードな仕事をこなす職員たち | p.177 | 13分 | |
10 施設内虐待の悲劇を防げ | p.198 | 11分 | |
11 僕たちにできること | p.216 | 8分 | |
12 実践・パートタイムの社会貢献 | p.229 | 14分 | |
あとがき | p.252 | 3分 |
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心に響くいい本でした。「努力できる強い心は、自分自身の気質や自己決定だけでなく、自分以外のだれかとともに過ごす日々によって育まれるものだ」
2011-11-22
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