3つの経済
世界経済は、互いに重なり合う3つの異なる経済で構成されている。
①貨幣経済
先進国経済と新興経済から成り、構成員は20億人。その内、先進国に住む裕福な8億人が世界のエネルギーと資源の75%以上を消費し、産業廃棄物、家庭ゴミの山を作り出している。
②伝統経済
途上国の農村部で一般的に見られる、村落を単位とした生活。40億人によって構成され、自給自足のため、貨幣経済との関わりは最低限にとどまる。今世紀半ばに80〜100億人に達すると言われる世界人口の9割は途上国が占め、ほとんどが伝統経済において起こる。
貨幣経済の浸透が、共同体の絆や伝統文化を失わせ、結果として大量の貧民を創出。この状況が高い出生率の原因となっている。人類は全体として100年前より豊かになった。最貧民でさえ、当時より教育、医療、食糧に恵まれている。しかし格差は広がり、貧困層の中でも伝統経済に暮らす人々の未来は一様に暗い。
③自然経済
貨幣経済と伝統経済を支えてきたこのシステムは、21世紀の幕開けと共に、徐々に内側から崩れ始めている。2つの経済の需要が拡大しすぎて、それを下支えする生態系の許容範囲を超えつつある。既存の作物は、農業や肥料の使用を増やしても効果が上がらず、結果的に、世界の一人当りの穀物生産量および食肉生産量は、1980年代にピークに達し、下降線を辿り始めた。
3つの経済圏の不調和が、環境汚染、貧困、資源枯渇という問題を引き起こしている。しかし、これは同時に大きなビジネスチャンスを創り出している。
BOPを目指せ
持続可能な世界に向けた社会的課題への取り組みは、企業の株主価値の創造に直結する。株主価値を長期にわたって継続的に創造するには、企業は以下の4つの領域すべてで実績を上げる必要がある。
①コストとリスクの削減 = 汚染防止
②評判、正当性 = プロダクトスチュワードシップ(環境配慮製品)
③イノベーション = 環境技術
④将来の成長市場のニーズ見極め = ピラミッドの底辺(BOP)
しかし、ほとんどの企業は、既存製品や従来の利害関係者に直結した短期ソリューション(汚染防止、プロダクトスチュワードシップ)のみに時間と意識を注いでいる。
所得ピラミッドの頂点での経済成長の行き詰まりやビジネスモデルの陳腐化は、今後企業にとって試練となる。既存の製品や事業の改良・改善も重要だが、そればかりに専念していると環境技術やBOPの未開拓市場がもたらす莫大なチャンスを見過ごすことになる。
企業がとるべき道は、グローバル化に取り残された40億人を超える人々によって構成されるBOPを目指すことである。そこは、経済成長に伴う社会や環境問題の課題に対処するため、イノベーションを育成するための最適な場でもある。