ルールを破れ
MTVはあらゆるルールを破った。資金を投入してドイツにケーブルテレビを作り、地上波で番組を流すこともやった。MTVの放送信号を暗号化せず、パラボラアンテナがあれば誰でも受信できるようにもした。
商品やサービスが良質でも、それを顧客に届けられなければ何も意味がない。MTVヨーロッパは、配信先を劇的に増やさなければ、生き残れないことは確実だった。他のメディア企業は黙ってインフラが整うのを待っていたが、そんな余裕はなかった。
強みを生かす
財政的な見通しは、ヨーロッパ全土に向けた広告からの収入にかかっていた。しかし、MTVヨーロッパにとって厄介な現実は、一つの国で充分な世帯加入者がいないため、全国宣伝と言えるものができないこと、そして、ヨーロッパの広告業界には大陸全土に向けた広告を買う発想がないことだった。
自分たちの弱みはわかっていたが、強みを生かすことに集中した。MTVは若者に狙いを定めた唯一のチャンネルであり、一つの国の放送局よりもたくさんの視聴者を提供できる点を力説した。一時期のMTVは、有料のCMより、無料のCMの方が多かったぐらいだった。コカ・コーラのCMを無料で流し、他の広告主にコカ・コーラはMTVで宣伝することに前向きだと思わせた。
MTVは統合マーケティングという技術も生み出した。広告主と協力し、MTVで流れているビデオと似た趣向のCMを制作した。結果、1年足らずで、45の広告主を常連客にし、翌年には130以上獲得した。
グローカルへ
MTVヨーロッパは1994年頃、成功し利益のあがる企業となったが、以下の2点の理由から、その地平に限界が近づいていた。
①広告主は約500となり、新規広告主を見つけるのが難しくなった
②統一ヨーロッパに対する初期の興奮が冷め、反動から愛国心が高まった
③母国語によるローカルなミュージックチャンネルが飛躍的に増えた
MTV内部でも汎ヨーロッパから、チャンネルをローカル向けに変えようという結論になった。新しいMTVの戦略は、ローカル文化を学び、それを自分たちのどんな決断にも反映させることになった。
各チャンネルの精神やスタイルは、一見してMTVとわかるように、世界全体で一貫したものになる一方、ビデオジョッキー、CM、ビデオ放送などは、ローカルの嗜好に合わせるよう、ローカルの経営陣に任せた。
世界各地のローカルにアピールしようとしたメディア企業は例がなく、それがMTV成功の鍵となった。だが、175カ国以上のローカル視聴者を相手にすると、番組の制作コストは法外になる。そこで、MTVは再び方向転換し、世界的規模を利用して、広範囲にアピールできる番組の制作コストに、たくさんのチャンネルが貢献するようにした。