百貨店の低迷
時代の潮目を読み、半歩先駆ける形で世に送り出すという「時代を読み切る力」は、強いブランドを作るにあたり欠かせない。時代の半歩先を行く新しさの提案は、もともと百貨店が果たしてきた役割の一つである。
しかし、バブルがはじけて以降、それが様変わりした。景気が悪くなって、贅を凝らすよりは、効果・効率が優先されるようになった。多くの百貨店では、商品分野が狭くなり、ライフスタイルの提案そのものを行うことが難しくなった。
90年代に入った頃から、服だけでなく暮らしを取り巻く様々なものへと、人々の関心は向かっていったのに、百貨店はそこを狙わなかった。効率の良い婦人服を中心にと、商品分野を狭めていったことが、使い手から見ると、時代に合っているように映らなかった。
そこにセレクトショップ等のライフスタイル提案型のショップや、駅周辺業態や郊外型の大規模ショッピングセンターなどが増え、百貨店の客は奪われてしまった。
変化に強い伊勢丹
東日本大震災を経て、「本当に必要なものは何か」を考えて消費を行う層は確実に増えている。つまり、これからの時代に向けた「上質さ」こそ求められている。その「上質さ」を提案できるのが百貨店であろう。次世代に向けての「上質さ」を探っている百貨店の一つが伊勢丹である。
伊勢丹は、時代の大きな潮目を読み、それに向けて売り場を作っていくのに優れている。伊勢丹のルーツは、神田の呉服屋であるが、当時世の中には、三越、高島屋、白木屋(現東急百貨店)といった老舗の呉服屋が存在しており、後発組であった。そのため先発組に負けない独自性を出すべく、様々な施策を打った。
関東大震災後、新宿に移転する際も、後発であるがため、駅から徒歩10分という立地になった。新しい仕掛けをしなければ、人が来ないため、独自性の追求と魅力的な話題作りを行った。これが、結果的に伊勢丹の強みを作ってきた。
百貨店が生き残るにはどうすればいいか
伊勢丹は「どこよりも早いこと」「オリジナルであること」について徹底的にこだわる。この動機づけがバイヤーの「時代を読み切る力」につながっている。
百貨店の常識では、売り場ごとに組織が構成されているため、担当の領域を越えて、他の売り場と協業することが珍しい。しかし、伊勢丹では売り場の枠を越えた様々な企画が行われている。
ネットも含めた新しいチャネルが次々と生まれ、枠組みにこだわらない売り場が登場している中、百貨店が「らしさ」を追求し、どのように生き残るかが問われている。その解の一つが「買い回り」にある。暮らしを取り巻くものを、独自の視点で編集して見せるところにこそ、百貨店らしさがある。