モノが売れない時代において、百貨店業界の中で世界一店頭売上が高い伊勢丹新宿店の事例を紹介しています。
なぜ伊勢丹が好調なのか。
関係者からのインタビューをもとに、その秘密に迫る。
■価値観は「質の良いもの」へ
ものが売れない理由として、リーマンショック後の不況から消費が冷え込み、東日本大震災で悪化したと言われるが、それだけではない。
「自分にとって本当に必要なものは何かを考え直し、手に入れたものを丁寧に使っていく、ものの価値を尊び慈しんで使っていく」、人々の意識はそちらに向かっている。時代の流れは「それなりの質のものを短期で使い捨てる消費スタイル」から「質の良いものを使い込む消費スタイル」へと向かっている。
そもそも日本という市場の中で、どの業態にも先駆けて「質の良いもの」を提案してきたのが百貨店である。しかし、効果・効率を優先する中で、必ずしも「質の良いもの」が提案される場ではなくなってしまった。結果的に「らしさ」が失われ、かつてのような牽引力が薄れている。
そのような中で、伊勢丹新宿店は、新しいブランドや売り場を次々と生み出し、ユニークなイベントを開催して話題を呼び、いつ訪れても多くの人で賑わっている。これは、「質の良いもの」が提案されているからに他ならない。
■伊勢丹で行われている取り組み事例
・デパ地下の統一什器
どこよりも早く、デパ地下で統一什器を導入したのは伊勢丹である。それまで伊勢丹に入っているブランドは独自の看板を掲げ、壁面やショーケースで個性を表現していた。この売り場を伊勢丹として統一した。入ってるブランドありきでなく、背景としての伊勢丹の独自性を強く打ち出そうとした。
・ISETAN STYLE
小冊子『ISETAN STYLE』は、食品売り場が発信している定期刊行物。様々な食材の組み合わせによるレシピ、ギフト、食材にまつわるストーリー。食に関する幅広い情報が網羅されている。
中でも食の冊子に食器の情報を紹介するのは珍しい。百貨店の大半は、売り場ごとに組織が分かれていて、領分を越えて仕事をすることはほとんどない。
・ビューティーアポセカリー
ウェルネスやヒーリングをコンセプトとした化粧品売り場。コスメの枠組みを越え、医療や薬剤に近い領域まで踏み込んでおり、顧客は悩みを相談しながら買い物ができる。
百貨店では、売り場をブランドからの派遣販売員に任せきりの事が多く、一部の商品知識しか持たない販売員が多い。しかし、ここではすべての販売員が売り場商品全体の知識を高めることを行っている。
著者 川島 蓉子
1961年生まれ。伊藤忠ファッションシステム 取締役 ifs未来研究所 所長 ジャーナリスト 1984年、伊藤忠ファッションシステム入社。ファッションという視点で消費者や市場の動向を分析し、アパレル、化粧品、流通、家電、自動車、インテリアなどの国内外の企業と、ブランド開発・デザイン開発などのプロジェクトを行う。 Gマーク審査委員、川崎市街づくり委員会委員、札幌市デザインコンペティション審査委員。 日経ビジネスオンラインや読売新聞で連載を持つ。
週刊 ダイヤモンド 2012年 6/16号 [雑誌] 紀伊國屋書店新宿本店第2課係長 水上 紗央里 |
週刊 ダイヤモンド 2012年 7/28号 [雑誌] 丸善丸の内本店「松丸本舗」売場長 宮野 源太郎 |
章名 | 開始 | 目安 | 重要度 |
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序章 | p.11 | 3分 | |
第一章 時代を読みきる力 | p.17 | 30分 | |
第二章 ストーリーを紡ぐ力 | p.73 | 17分 | |
第三章 新しいモノ・コトを切り開く力 | p.105 | 22分 | |
第四章 仕入構造を見直す改革 | p.145 | 28分 | |
第五章 日本を考える | p.197 | 19分 | |
おわりに | p.232 | 2分 |