プロのゲーマーになるまで
子供の頃、僕にとって唯一の存在だったゲームを諦めたら人生が終わるという覚悟でゲームをやっていた。ゲームしかない自分に嫌気がさし、こんな自分でいいのかと自問自答する辛い毎日の中で、格闘ゲームで相手を負かした瞬間だけは気持ちを安らかに保つことができた。
中学1年生の終わり頃から、ゲームセンターに通うようになった。ほとんどの友達が部活動を始めたことで、ますます一人になった。一人になった時、「俺、なんでゲームなんだろう」と思い悩むことがよくあった。だから、ずっと自分のことが好きになれなかった。
意地になって打ち込んだゲームは、みるみるうちに強くなった。10歳の時に本格的にゲームを始めてから4年、14歳の時、日本の頂点に立った。1998年、17歳の時、サンフランシスコで開催された格闘ゲームの大会に招待され、世界一の称号を勝ち取った。
僕がそこまで頑張ってこられたのは、ゲームといえども、自分を高める努力を続けていれば、いつかゲームへの、そして自分自身への周囲の見方を変えることができると信じていたからだった。
ところが状況は一向に変わらなかった。年齢を重ねるにつれ、このままでは成長がないと思い、以前のようにゲームと向き合えなくなった。2004年、23歳でゲームの世界を離れ、これから何をしようか悩んだ。スポーツもダメ、勉強もダメ、できれば勝負事、それも人を相手にする勝負がいい。
そして、麻雀に打ち込む決心をした。毎日12時間、雀荘でバイトをしながら麻雀の打ち方を勉強した。最初の頃は、ゲームで培った事を生かせると考えていた。しかし、ゲームで磨いた勝負勘や観察力は、意外なほど役に立たなかった。
気が付くと麻雀を始めてから2年が過ぎていた。しかし、納得のいく成果がでない。いつまで経っても出口の見えない長いトンネルをひたすら歩いているような気分だった。そろそも潮時かもしれないと思った時、フッと気持ちが軽くなり、覚悟を決めて、もう一度麻雀と向き合うことにした。
強い人の打ち方を真似し、自分が考えた戦い方を試した結果、3年で麻雀のトップレベルに立てた。しかし、結局そんな麻雀もやめてしまった。ゲームと同じように、自分の思いに応えてはくれなかった。ゲームも麻雀もやめ、人生に打ちのめされた。
その後、介護の仕事を始め、1年半続けた。毎日が淡々と過ぎていったある日、友達に半ば強引に誘われ、ゲームセンターに足を運ぶことになった。そこで猛者を打ち負かし、その感覚に酔いしれた。再び勝負の舞台に戻り、2009年の世界大会で優勝した。その後、日本人で初めて、企業からスポンサー契約の話をもらい、プロの格闘ゲーマーとなることになった。
スポンサー契約を交わした瞬間、初めてゲームをしていることを肯定されたような気がした。