インクジェットの特徴
これまで大量生産をするためには「型」が必要とされてきた。しかし近年、低コスト、高速で、型を使わずすべて「一点物」として作る技術が注目されるようになってきた。その代表例が「インクジェット」である。
写真や年賀状を印刷するのに使われるインクジェットプリンターには、従来の技術にない、以下の特徴が備わっている。
①微細な液滴をデジタルで制御する
インク滴の分量から、どこに配置するのかまで制作者の意図通りにできる。一つ一つの要素を配置できるということは、使用する材料が少なくて済み、コスト削減につながる。
②印刷対象に接触しない
版をつくらずにデータから直接パターンを描き、印刷対象と接触しないため、何にでも印刷できる。非接触ということは、摩耗がおこらず耐久性でも有利。
③仕組みがシンプルで小型化できる
大がかりな真空装置やクリーンルームが不要で、設備投資を大きく引き下げる。
④駆動エネルギーが少なくて済む
A4サイズのカラープリンターを例にとれば、消費電力はレーザープリンターより9割以上少ない。
⑤インクが飛び散らない
インクジェットプリンターで使われるピコリットル、フェムトリットルの液滴では、表面張力により液が飛び散らない。
インクジェット技術の応用事例
インクジェットは「平面」に限らず「立体」も印刷できる。精巧なフィギュアから工業製品のプロトタイプ、立体地図まで可能にする「3Dプリンター」の応用が急速に進んでいる。
大量生産から究極の個別生産へ。現在、インクジェットが利用されているものづくりには以下のようなものがある。
・ケーキやクッキー等のお菓子にメッセージを印刷
・Tシャツだけでなく、有名ブランドやユニフォーム等にも模様のプリントに利用
・家の外壁材に利用
・建築模型を3Dプリントで制作
・オンラインゲームのフィギュアを3Dプリントで制作販売
・テレビの液晶画面の内部、配向膜とカラーフィルターの打ち出し
・電子回路の金属配線をプリント
・有機太陽電池の製造
・薬の錠剤やカプセルの表示印刷
・DNAチップの作製
・人工の骨、人工臓器の作製(研究段階)
インクジェット技術の普及によって、各産業の「個別化」「低コスト化」「モノのデータ化」が大きく促進される。
原材料の使用量が減るということは、原材料の供給や輸送に携わる人の数が減ることでもある。製造プロセスが簡素化され、オンデマンドの生産が可能になれば、仕事は削減されることになる。
リソースの最適化とは、原材料やエネルギーのみならず、人的リソースの最適化も含む。インクジェットに代表される近年の技術は、従来の最適化よりもはるかに劇的な影響を与えることになる。