日本企業の成長を阻んでいるもの
停滞期の企業経営は、成長期に比べ格段に難しいものとなる。そこで重要となるのが「選択と集中」の戦略である。低成長時代になれば、手広く行っている事業をすべて抱え続けることは不可能である。過当競争を避け、得意分野を中心に事業を絞り込むことでグローバル競争を勝ち抜ける事業構造にすることが大切である。
選択と集中を行う際には、赤字を出し続けている問題事業を、企業体力がある時に片づけておくべきである。選択と集中は、目先の不況を乗り切るための方策ではなく、長期的に企業の競争優位をどう築くかという戦略的課題である。
「事業を抱え込む」という発想を捨て、敢然と事業を仕分けし、悪いものは手離さなければならない。しかし、経営力不在だと、事業を何とか温存しようとする議論に陥ってしまう。
日本企業の成長を阻んでいるのは、変化に対処する力の不在であり、それを促す仕組みである「ガバナンス」が存在していないことにある。
ガバナンスを機能させよ
取締役の最も重要な役割は「経営トップに間違った行為をさせない」ようにすることである。「このやり方でいいのか」といった視点で常に経営トップを監督する。
しかし、日本経営の実態は、その会社の所有者である株主によって雇われているはずの経営陣が、実質的に「会社を乗っ取ったような状態」にある場合が多い。経営トップ自らが代表取締役となり、取締役を選んで配下に置き、執行役も兼任させる。これでは、経営トップを監督することができず、ガバナンスは機能不全に陥ってしまう。
さらに経営トップが監査役を選んでいるような場合では、ますますガバナンスが機能しているかはおぼつかない。
日本でガバナンスが機能しにくいのは、取締役会と監査役会が並列しているからである。監査役会が取締役会の上位にあり、取締役の人事権を持つドイツや、取締役会の過半数を社外取締役としているアメリカのようにすれば、ガバナンスを徹底できたはずであるが、今の日本は中途半端な形になっている。
ガバナンスを機能させる取締役会の要点は「必要とあれば経営トップを更迭することができる体制」である。その場合、社内取締役を中心とする体制では機能しない。
株主価値を高める経営を
ガバナンスを機能させ、株主を基軸とする経営を行えば、株主価値を高めるため、株式資本コストを意識するようになる。事業を評価する際に、株式資本コストを用いるようになれば、投資を厳しく選択したり、利益水準の低い事業をやめるなど、事業の資本効率を高めるようになる。