つながることで「深み」が失われる
私たちがつながりから解放されずにいるのは、自分たちが絶えずつながりを求めているからである。しかし、つながりが増えるにつれて、ものの考え方や暮らし方を決める際に外の世界に頼る比率が高くなる。他の人々の声がしきりに聞こえてくるため、自分の声よりも周囲からの声に従いがちである。
つながっている時間が長くなるにつれて、「奥深さ」という大切なものが失われていく。考えや感情の深み、人付き合いの深み、仕事や活動の深み。深みがあってこそ私たちは意味ある充実した人生を送れる。
心理学の知見によると、頭を使う仕事をやめて横から入ってきた用事に対応すると、感情や知覚は肝心な仕事から離れ、元に戻る時間も長くなるという。集中力を回復するのにかかる時間は中断時間の10〜20倍に及ぶこともあるという。
しかも、スクリーン上をそわそわろ動き回って、時間が過ぎていく状況では、創造的な思考を怠っている。
「適度につながらない」ための知恵
デジタル機器との付き合い方は選べるのだから、「つながりを断つ」ことは、どういった思想や原則に従うかという哲学的な問題である。人類は文明発祥の頃からこの難問と向き合ってきた。人間同士のつながりが進展すると人混みが増えるから、暮らしは以前よりも慌ただしくなるのが常である。
何より重要なのは、つながっている時間とそうでない時間、集団と自分、外向きの生活と内向きの生活をほどよく調和させることである。
そのための方法を過去の賢人から学ぶことができる。
①プラトン
古代ギリシアは話し言葉で成り立つ社会であった。対話や語らいによるコミュニケーションが重視され、アテネの生活は慌ただしかった。そこでプラトンが出した答えは「物理的に距離をとる」ことであった。これは、人混みや集団に翻弄されないための人類最古の方法である。
②セネカ
セネカは騒々しいローマで、書簡をしたためながら自分の内面へと向かい、外界から距離を置いた。自分の考えや相手にしている人に意識を集中して、それ以外の一切を遮断した。
③グーテンベルク
グーテンベルクは、人間を内面へと向かわせるツールの中でも偉大な「本」を広く普及させた。本は一人で黙読すると、外界から影響や制約を受けずに内面世界を旅することができる。
④シェークスピア
印刷時代の初期、手書きの習慣は廃れるどころか普及に拍車がかかった。ハムレットが手帳を愛用した事からもわかるように、新しいツールに起因した情報過多に対処する上では、古いツールが威力を発揮する場合もある。
⑤フランクリン
ベンジャミン・フランクリンは、前向きな目標を掲げ、それを実現するための儀式に従うことで、大事な事柄に集中した。