増税の口実に使われる大震災
内閣府は、東日本大震災における物的資産の毀損額を約16.9兆円と推計しているが、詳細な根拠は何もない。この金額から出発して、政府は、震災復興のためには19〜23兆円の予算が必要で、それを賄うために10.5兆円の増税が必要だとしている。
日本全体の工場や住宅、道路などの物的資産の額は1237兆円。日本人1人当たり966万円の資産を持っている計算になる。福島、宮城、岩手3県の津波による浸水地域の人口は51万人。自宅に住めないような深刻な被害に遭った人は50万人程度だろう。
従って、東北3県で破壊された物的資産は「966万円×50万人=4.8兆円程度」ではないか。仮に多めに6兆円とした場合、日本全体の物的資産は、民間2:公共1であるため、公的資産の復旧には2兆円が必要となる。民間資産の復旧に半分援助したとして、さらに2兆円。実際に必要な復興費用は4兆円程度であろう。
過去の震災復旧対策の浪費ぶり
復興予算が大きくなるのは、今回だけでない。
・北海道南西沖地震
人口4700人の奥尻島に費やした復興費は760億円。1人当たり約1620万円。
・阪神淡路大震災
全半壊の住宅24万9180棟、避難者数はピークで32万人。深刻な被害に遭った人は40万人以下だろう。費やした復興費は16兆円、1人当たり4000万円となる。
復興費用がかかった理由には、神戸市が震災後、神戸空港の建設や東部新都心開発など、大規模な開発計画を震災復興計画の中に滑り込ませたことがある。
無駄遣いされる復興費
政府や県は、以下のような用途に復興費を使う予定である。
・応急仮設住宅
10万戸超の仮説住宅の建設に4129億円。仮説住宅は、薄いパネルを鉄骨の間に挟んで組み立てるもので、1戸30㎡である。1戸あたり412.9万円は高過ぎる。
・地方への補助金
岩手、宮城、福島の地方税収額は計6300億円。これに対し、2.3兆円の地方交付税交付金が予算計上されている。これらの地域で破壊された物的資産は全体の1割である。
・エコタウン
宮城県の復興計画では、復興住宅に太陽光発電設備を全戸整備し、住宅街にバイオマスエネルギーを導入するとある。停電に強い街にするだけであれば、病院や避難場所に、ディーゼル発電機などを用意しておけば済む。
・三陸縦貫自動車道などの整備
東北自動車道はほぼ無傷、日常生活では現行の三陸自動車道で十分である。新しい高速道路は費用対効果が低過ぎる。
無駄遣いの理由
政治家と官僚は、工事期間の長い公共事業を行い、人々を政治に依存させようとしている。震災復興策は、政治家の票田を維持するための利益誘導政策として、経済効果の低い、予算の消化を自己目的とした事業になる。