一般に模倣というと、独自性や創造性とは逆のものと思われがちである。しかし、小説や絵画、音楽でも、独創的だと評価されるもののほとんどは、過去の偉大な作品を参照なり、引用なりしている。その上で、差異や独自性を強調している。
すなわち、独自性を追求するからこそ、逆に模倣の力が大切である。

模倣には「製品レベルの模倣」と「仕組みレベルの模倣」がある。製品レベルの模倣は、そのペースが早まっている。製品レベルでイノベーションを起こしてもすぐに追いつかれる。仕組みの模倣が伴わなければ、本当の意味での差がつかなくなっている。

次世代の仕組みのあり方について考えるには、良い経営を実践している「お手本」を探すことが大切である。同業他社だけでなく、異業種や海外などの遠い世界で参考になりそうなものを探した方が、面白いアイデアが生まれる。

模倣を行うには、以下の4つのパターンがある。

①単純模倣
他社のビジネスモデルの一部、もしくは全部をそのまま真似る。

ex.ライアンエア
単純模倣が最も顕著な業界の1つに、ローコストキャリア（LCC）と呼ばれる格安エアラインがある。この原型は、米国サウスウェスト航空だと言われているが、ヨーロッパではライアンエア、アジアではエアアジアが模倣に成功している。

②反面教師
同業他社を悪い見本として、その逆を行う。

ex.グラミン銀行
バングラディシュのグラミン銀行は、これまで融資の対象とみなされなかった貧困層を対象に無担保で少額融資を行っている。
既存の銀行が融資に失敗する理由の1つは、一度に相応の額を貸付け、まとまった形で返済させることにある。グラミン銀行は、これを反面教師に、1回1回の返済額を少額にし、貧困層相手に90％以上の返済率を実現した。

③横展開
模範を社内から探し、モデリングする。隣の事業部や、海外の地域法人の取り組みをモデルにして、別の事業を作り上げていく。

ex.ジョンソン＆ジョンソン
ジョンソン＆ジョンソンの発祥は、医療用の消耗品にある。この使い捨てのモデルを、コンタクトレンズに横展開した。

④自己否定
自己の失敗と向き合い、自らの限界を映し出すことでモデルとして相対化する。反面教師として、新しい仕組みを築き上げる。

ex.アスレチックス
米国メジャーリーグ球団のアスレチックスは、資金繰りに苦労するようになり、一流選手を雇用できなくなった。そこで、選手の評価基準を見直した。経験や勘に頼ったスカウトから、統計データを重視し、誰も気に留めないような「変わり者」を安く獲得し、実績を上げさせた。そして、選手の評価が高まると他球団に高額で売却し、それを元手にチームを強化した。